大東亜戦争に従軍した漫画家・水木しげるが実体験を基に描いた戦記漫画。戦争の悲惨さ、無意味さ、怖さを描いた傑作。漫画の枠を超えて講談社文庫に収めれているのがすごい。
舞台は太平洋戦争末期の南方戦線ニューブリテン島バイエン。米軍の猛攻のなか指揮官は部隊の玉砕を決断し、命令を下すが……。ちなみにニューブリテン島の位置はこちら。
戦略的に勝てるはずもない太平洋戦争を始めた日本の首脳部も無能極まるが、最前線の現場指揮官もひどい。主人公の所属する支隊長はやたらと大楠公(楠木正成)を引き合いに出して訓示を垂れる。しかも訓示だけでなく、寡兵で大軍を打ち破った正成に倣おうと指揮を執るから、兵士たちはたまったものではない。
どうせならゲリラ戦でもやればいいものを、無謀な作戦を実行するから部隊はあっというまに敗退して、残るは「玉砕」のみ。もともと勝てるはずのはい戦争だが、旧陸軍のやり方じゃ絶対無理、とため息が出るレベルのお粗末さ。
しかも玉砕しそこなった部隊は闇に葬るがごとく、士官は自決させられ、兵士たちは再び最前線に送られる始末。この旧軍のデタラメなやり方が本作の大きなテーマとなっている。最後は写実的な白骨の描画で終わり、戦争の恐怖を読者に突きつけてくる。
水木は「ゲゲゲの鬼太郎」などの妖怪漫画で広く知られているが、後世に残したかったのは戦争のことだったのだろう。本作はその代表的な戦記漫画であり、ずっと読み継がれてほしい作品である。
今回読んだ本は「新装完全版」ということで、筆者の死後発見されたという構想ノートが付いていた。この機会に是非読んでほしい。