退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】佐藤優『人生のサバイバル力 17歳の特別教室』(講談社、2019年)

ジャケ買いならぬ表紙に惹かれて読んでみた。「17歳の特別教室」シリーズのなかの一冊。作家の佐藤優が沖縄の久米島高校の生徒に昨年行った特別授業をまとめたもので、1時間程度で読める分量である。

人生のサバイバル力 17歳の特別教室

人生のサバイバル力 17歳の特別教室

なぜ沖縄でと思う人もいるだろうが、佐藤氏の母親が久米島出身だという。そうした縁は知っていたが、母親が民間人として沖縄戦を経験していたことは本書で初めて知った。ちなみに久米島の位置は下のとおり。沖縄本当から西方約100キロメートル。

沖縄での特別授業ということもあり、米軍基地が沖縄県に押しつられている現状を「トイレ掃除」に喩えて説明しているのは印象的。米海兵隊が、海のない岐阜・山梨から、沖縄に移転して、沖縄返還後もそのままになっている現状は沖縄側からすれば納得いかないだろう。

高校生なら大学受験が気になって仕方ないはずである。そんな生徒たちに「何のために勉強するのか」と問いかけているのは皮肉なんことだ。佐藤氏は、「入学歴社会」は終わると看破しているが、現実の受験を目の前にして受験生たちはどう思うのだろうか。

また最終章では、唯物史観を紹介して資本主義の本質について解説を加えているのも面白い。いわゆる「労働の搾取」の話である。こうした社会のしくみは、すべての高校生が知っておくべきことだと思う。しかし搾取する側からすれば、あまり知られたくないことなのかもしれない。「由らしむべし知らしむべからず」というワケだ。生徒から搾取する側に立つために勉強するのだという意見はでなかったのだろうか。

全般的に大人が読んでもためになる本だが、この本でやや不満なのは、特別授業にもかかわらず生徒側の感想やフィードバックがほとんど取り上げられていないことである。この授業を受けた生徒たちが何を感じたのか訊いてみたい。

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