退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『化石』(1975) / ヨーロッパ・ロケの映像が素敵です

シネマヴェーラ渋谷の《日本のオジサマII 佐分利信の世界》という企画で映画『化石』(1975年、監督:小林正樹)を鑑賞する。前から見たかったレア作品だったがようやく見ることができた。原作は井上靖の同名小説。テレビドラマを劇場公開用に編集した文芸映画で、途中に休憩をはさむ200分に及ぶ長尺作品。今回は一本立てだった。 

一代で建設会社を築いた男・一鬼(佐分利信)は、休暇のためヨーロッパ周回旅行に出かける。パリで体調を崩した彼は現地の病院で診察を受けて余命1年であることを偶然知り、あらためて生と死を見つめ直す。失意のうちに帰国すると、会社は経営危機に陥り、社長の一鬼は多忙を極めてついに病に倒れる。しかし日本での診断は手術可能というものだった。手術は無事成功し健康を取り戻した彼は、死を覚悟していたときとはまるで違う人間として新たな人生を始める。

この映画の美点のひとつは、70年代のヨーロッパのロケ映像だろう。なかなか趣がある。が、惜しむらくはテレビドラマ用に16ミリで撮影されたので画質がイマイチだし、画面が4:3なのも残念。

それでも佐分利信が、岸惠子とパリ在住の若い日本人夫婦(山本圭佐藤オリエ)の4人でブルゴーニュに出かけるシーンは実に美しい。旧いシトロエンでのブルゴーニュへの道をドライブするとはうらやましい。

出演者では、黒い喪服を着た死神とパリ在住の美貌の日本人女性の二役を演じている岸惠子に注目したい。手術成功後に一鬼の前から死神が消えていくシーンが印象的。またヨーロッパ旅行に一鬼に同行する秘書を演じている井川比佐志と佐分利信との掛け合いも楽しい。

本作は重厚な文芸映画だが、やはりテレビドラマを編集したためか、せっかく他にも名優たちが出演しているのにあまり活躍しないで平面的である。きっとテレビドラマはもっと重層的な演出だと思うが、果たして映像は残っているのだろうか。ぜひテレビドラマを通して見てみたいものだ。

f:id:goldensnail:20141031203424j:plain