ウィキペディアの運営方針やその周辺で起きた事件を、管理人たちから聞けるのは貴重である。ただし執筆当時の状況ではあることは留意する必要はある。まず一読して、これほど無法地帯だったということに正直驚いた。このサイトを運営する組織は法人格すら持っておらず、法的な問題が生じた場合の窓口も日本にはないという。これだけネットでの影響が大きくなると、こうした状況に対し一定の法規制がかかるのも仕方ないかなとも感じた。またアンチ・ウィキペディアの立場の人のインタビューも掲載されているのは評価できる。
ウィキペディアで何が起こっているのか―変わり始めるソーシャルメディア信仰
- 作者: 山本まさき,古田雄介
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さて肝心のウィキペディアの項目の信憑性はどうだろうか。これが玉石混淆であることは、自分の得意分野を覗いてみれば、すぐわかるだろう。まあ疑って読まなければならないということだ。参加者の善意に基づく集合知が機能していないかがわかる。匿名性と民主制の枠組みではムリなのか。やはり、実名執筆によるGoogleのknol のようなプロジェクトへ移行していく必然性があるのかなと考えてしまう。
あと物足りないと思ったのは、各国のウィキペディア事情である。米はもちろんだが、独仏では法人化された運営組織があるという。そのあたりに事情を詳しく知りたかった。また各国の文化面の差異についても興味深い。ウィキペディアで何かを調べるとき、一応英語版もチェックするようにしているが、英語版のほうが充実していることが圧倒的に多い。これは言語人口が多いからだけではないような気もする。各国のウィキペディア事情により社会や文化を比較するという試みがあってもいいかもしれない。