退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

東村アキコ『かくかくしかじか』読了しました

東村アキコが自らの半生を描く自伝エッセイ漫画『かくかくしかじか』(全5巻)を読了しました。通常、コミックは完結してから読むことにしているのですが、この漫画は待ちきれずに2年前ぐらいからぼちぼち読みついに読了しました。

かくかくしかじか 1 (愛蔵版コミックス)

かくかくしかじか 1 (愛蔵版コミックス)

この漫画は、東村アキコの生い立ちから美大に入学して漫画家として成功するまでを描く自伝エッセイです。コメディ漫画を中心とした作風かと思っていましたが、このようなシリアスな作品も描けることに驚きました。

現在の東山が過去を回想する形式で物語が進行します。

美術大学に進学し在学中に漫画家としてデビューする」という野望を実現するために美大を目指す主人公の高3の林明子(後の東山アキコ)は、美大受験のために「日高絵画教室」に通います。そこで出会った恩師である日高健三と林との師弟関係が物語の軸です。

日高先生のスパルタ指導のもと二人三脚で美大を目指し、金沢美術工芸大学に見事合格するあたりは美大受験記としても面白く読めます。

物語は大学生活から就職と進み、漫画家として進路を自ら選びます。油絵と漫画の両立が無理だと分かったときの林の葛藤など次第にシリアスな展開になります。

その後、日高先生は不治の病に罹り、林に絵画教室を任せようとするが林は漫画を選びます。そして二人はロクに言葉を交わすこともなく日高は死去。葬儀のあと絵画教室の仲間で集まったときに仲間のひとりから出た日高の最後の言葉「描け」が胸を打ちます。

単行本の表紙はこれまで東村の自画像だったのに、最終巻だけ日高先生という演出も泣けます。単行本の表紙はいずれも力作で画力の高さを実感できます。

日高が他界することはこれまでに何度も伏線があったので驚きませんでしたが、手術や治療を拒んで最後まで画を描き続ける姿勢に圧倒されます。

東村の地元にこれほどスゴい人がいて指導を受けれたのは幸運というほかありません。都会だと美大予備校に高い月謝を払って通うことになるのでしょうがそれとは大違いです。こうした出会いあったからこそ、東村アキコが漫画家として世に出て『海月姫』などが読めるというのは読者としてもラッキーなのでしょう。

余談ですが、最終巻の巻末には東村の大学時代の写真のほか、日高先生の写真が載っています。全巻読了したあとに写真を眺めると感慨ひとしおです。

第8回マンガ大賞受賞作と既に高い評価を得ている作品ですが、未読の方はぜひ手に取ってみてください。強くオススメします。

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