ヤマザキマリととり・みきの合作によるコミック「プリニウス」(全12巻)を読み終わった。連載時期は、2013年12月から2023年2月にわたる。ようやく完結したと聞いて最初から読み直してみた。
この作品は、かつて愛読していた雑誌「新潮45」で連載が始まったが、諸般の事情で当該雑誌があえなく休刊。その後、雑誌「新潮」に移って連載が再開されている。移籍後も追いかけていたが、休載も多いこともあって、完結後にまとめて読むことにした。
プリニウスといえば、『博物誌』を書いたローマ帝国の博物学者として世界史の授業で覚えさせられた人も多いだろう。私もその程度の知識で読み始めたが、読み進めていくと当時のローマ時代の世界観に引き込まれた。物語はプリニウスの最期まで描かれるが、プリニウスの物語であると同時に皇帝ネロの物語でもある。
ネロは暴君として語られことが多いが、本作では実に人間味溢れた人物として描かれている。憎めない同情したくなるようなキャラクターである。それでも、およそ皇帝の器ではない。まあ岸田が日本の首相であることも相当にヤバいが、ネロがローマ帝国の皇帝であるのは、もっとヤバいなと思わせる。最期は悲劇的であるが、自業自得というには可哀想な気もする。
登場人物では、プリニウスの護衛を務めていたフェリクスが好き。始終禿頭を気にしたり、女房の尻に敷かれたり愉快な人物だが、いざというときは達人の域にある格闘術を披露して頼りになる存在である。
また終盤に、プリニウスの幼少期や青年期が描かれるパートがあるが、それも気に入っている。プリニウスは、ローマ帝国の高官であり、エリート教育を受けているが、ローマに上京する前に故郷の自然のなかで育ったことが、博物学へのつながるというのも面白い。また恋愛にひどく不器用だったエピソードも、さもありなんと思った。
本作はヤマザキマリととり・みきの合作であるが、分担はどうなっているのか気になるわけだが、各巻の巻末に二人の対談が載っていて、分担などを含むいろいろ示唆に富む内容で有用だった。二人のインタラクションが、本作の独特の作風をつくっていることがよくわかる。歴史漫画が好きの人にオススメの作品です。