DVDで映画『苦役列車』(2012年、監督:山下敦弘)を鑑賞。西村賢太による芥川賞受賞作の映画化作品。主演は森山未來。
1986年。19歳の北町(森山未來)は日雇い労働者として鬱々とした生活を送っていた。ある日、仕事場で知り合った専門学校生の日下部(高良健吾)と意気投合したり、日下部に紹介された古本屋でバイトする康子(前田敦子)への片思いを募らせたりするが……。
想定外の青春映画である。主人公と友人たちが下着姿で海に入るシーンがあるのが象徴的。
私小説だという原作は未読だが、こうした雰囲気の小説でないだろうと想像される。それでもちゃんと一編の映画として成立しているのは立派。ある意味、プロフェッショナルな映画と言えるだろう。原作者はかなり不満だったらしいが……。
映画でとくに素晴らしいのは森山未來。三白眼を持った造形も凄いし、台詞回しなどの役作りで、金とセックスのことしか頭になく粗雑な主人公を見事に演じている。
前田敦子が演じたヒロインはこうしたキャラクターである必要はあったのかという思いはある。もっと薄い存在でよかっただろう。不動のセンターだった前田が出ることにより、役に余計な色がついた気がする。まあ青春映画としてはヒロインは必要だったのかもしれない。
またラストで主人公がいきなり原稿用紙に向かい、小説を書き出す場面は唐突に思えた。最後に希望を感じさせるのは青春映画の常套手段だとしても、いきなり何を書き出したんだろうと思ってしまう。
最後にマキタスポーツについて触れておきたい。この映画を見直そうと思ったのは、マキタスポーツの自伝『雌伏三十年』を読んだからだ。マキタの人生に映画を重ねたアイデアは面白いし、やはり映画にとって音楽の力は大きいな感じさせられた。