少し前に映画『旅のおわり世界のはじまり』(2019年、脚本・監督:黒沢清)を見てきました。上映規模が小さいせいか、いつものシネコンでは上映がなかったので、出先にあったミニシアターで鑑賞。ヒットさせなければという重圧も少ないのだろうか、いい意味で力が抜けているのがよい。
バラエティ番組の取材のために、番組クルー(染谷将太、柄本時生、加瀬亮)とともにウズベキスタンを訪れた女性レポーターの葉子(前田敦子)が異文化のなか現地の人たちとの交流を通して成長していく姿を描く。
映像をコントロールしたい黒沢清監督にはめずらしい、ウズベキスタンでのオールロケで構成されたドキュメンタリータッチの映画。映画はフィクションだが、俳優たちが演じる撮影スタッフが前田敦子を撮っているまわりに現地の人たちが自由にしている様子が映っているのが面白い。
前田敦子の涙が美しい…黒沢清監督『旅のおわり世界のはじまり』予告編
ウズベキスタンの風景はどこも新鮮で惹き込まれるが、なかでも謎の「遊具」のシーンが印象に残る。ぐるぐる回る「遊具」に乗って、レポーターがひとこと感想を言うという企画だが、この「遊具」は、本当に安全なのかと思うほどハードなのだ。これに半ば強制的に乗らされた葉子がヘロヘロになる姿にハラハラさせられる。「もう一回行ってみよう」というスタッフは鬼かと思った。
ハラハラするといえば、主人公・葉子がオフの時間はスタッフといっしょに行動せずに、食料を調達するために街にあてどもなく小走りで彷徨うシーンも印象的だ。ウズベキスタンの治安はどうかわからないが、若い女性がひとりでふらふら街に出たら危険だろうに……。迷惑だなあと思っていたら、案の定、現地警察の世話になる始末。いい大人が何やってるのか。
それもこれも、バラエティ番組のレポーターとは別にやりたいことがあり、「私はなんでこんなことをやっているのか」という焦りのあらわれということか。それでは「やりたいこと」とは何なのかと思っていたら、突然、丘の頂上で「愛の賛歌」(岩谷時子の訳詞ではないバージョン)を歌い出して、ミュージカルの舞台に立つのが夢だという。
「なんだかなぁ~」と思ったが、これまで見たことのない映画なのはまちがいない。前田敦子をキレイに撮ることにも成功している。前田敦子のファンだけでなく、ちょっと変わった映画を見ていたい人にもオススメ。でも上映規模が小さいので要注意。