退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『宮本武蔵』(1973) / 高橋英樹主演は悪くないがダイジェストすぎる

DVDで映画『宮本武蔵』(1973年、監督:加藤泰)を鑑賞。吉川英治の時代小説の映像化。主演は高橋英樹

吉川英治の『宮本武蔵』は何度も映像化されているが、すでに日本映画が斜陽化していた時期が悪かったのだろうか、ダイジェストすぎて話が何がなんだかわからない。長編小説を2時間半の尺で映像化するのは無理な話である。そもそもの企画がおかしい。

宮本武蔵の映画といえば、中村錦之助主演の内田吐夢版を思い浮かべるが、こちらは巌流島の戦いまで5本撮られている。終盤は時代劇が廃れてきたこともあり難渋したらしいが、第5部まで撮ってなんとか格好がついている。

本作の出演者たちは悪くない。主演の宮本武蔵役の高橋英樹は迫力のある殺陣で好演している。お通役の松坂慶子も美しいし、沢庵和尚役の 笠智衆も渋くて貫禄がある。ただし又八役がフランキー堺なのはちょっと歳を食いすぎだろうか。

そして極めつけは、佐々木小次郎役の田宮二郎。プライドが高く傲慢な小次郎の雰囲気がよく出ていて適役である。ダイジェストなので出番が少ないのが惜しい。武蔵対小次郎の決闘にフォーカスして映像化したほうがよかっただろう。

映像上の特徴としては、加藤泰特有の謎のローアングルが挙げられる。水面ぎりぎり、さらに水面下からのショットが多用されているが、何が映っているのかわからない。映画館の大きなスクリーンで見ると迫力を感じられるのかもと思ったが、どう考えてもやりすぎだろう。

いい映画が取れそうな布陣なのだが企画がそもそも間違ってるのだから挽回にしようもない。見どころをあえていえば、又八の母・オババ(任田順好)の鬼気迫る姿だろうか。ちょっと惜しい映画である。