退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『孤狼の血』(2018) / 実録路線と呼ばれたかつての東映ヤクザ映画のリブート

新文芸坐で映画『孤狼の血』(2018年、監督:白石和彌)を鑑賞。柚月裕子の同名小説の映画化。マル暴の悪徳警官を主役に金融会社社員の失踪事件や暴力団間の抗争を描く。過激な暴力描写のためR15+作品。心臓の弱い人は要注意。併映はなんと『県警対組織暴力』というナイスな二本立てだった。

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  • 発売日: 2018/11/02
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昭和63年の広島県の架空の都市が舞台。そこは、いまだに暴力団が割拠し抗争の火種を抱えていた。そうしたなか暴力団系の金融会社社員の失踪事件が起こる。暴力団絡みの殺人事件だと目星をつけたマル暴の刑事・大上(役所広司)は、県警本部から赴任したエリート新人刑事・日岡松坂桃李)を連れて捜査を始める。大上は、捜査のためなら手段を選ばず、暴力団との癒着すらもいとわない規格外の刑事だった。大上は次第に事件の真相に迫るが……。


映画『孤狼の血』予告編

東映の実録路線のリブートとも言えるが、さすがに『仁義なき戦い』のように暴力団を主体のヤクザ映画は撮れないのだろう。マル暴の刑事が主役に据えられている。そのため警察内の政治ゲームの様相が濃く、純然たるヤクザ映画というわけではない。このあたりが現在の東映の限界なのかもしれない。

映画は往年の東映のヤクザ映画よりまともなエンタメ映画に仕上がっている。ヤクザ映画の体裁をとるが、失踪事件の捜査の行方、そして日岡刑事の極秘任務、大上刑事の過去の秘密など、謎解きというかサスペンス仕立てのストーリーで楽しめる。

役者陣のなかでは役所広司の凄みが圧倒的。一人舞台と言ってもいい。しかし往年の東映映画に比べると、どうしても役者の持ち駒が少ないなと感じる。それでもヤクザの若頭を演じた江口洋介の侠気はよかった。ちょうどいま『東京ラブストーリー』の再放送を見ているが、江口はチャラい医大生を演じていて、その対比が面白かった。

映画の要である役所は映画途中で暴力団に殺害されてしまう。このあと映画は、いったいどうなるかと思ったが、凄みを増した松坂が役所の後を継ぐという、継承物語としてもよくできている。また終盤のホテルのパーティーを急襲する場面から終盤のどんでん返しへの流れも素晴らしい。

地上波ではそのまま放送できない過激な映画であり、ああヤクザ映画を見たなという気分に浸れる。映画公開後、続編の製作決定というニュースを聞いた。役所広司抜きでどうするのだろうと思うが期待したい。

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