退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

アニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」を見終わったけど…

Production I.Gによる新作アニメーション「銀河英雄伝説 Die Neue These」(全12話)のTOKYO MXによる放送分が終わりました。みなさんいかがでしたか?

なんとも中途半端なところで終わりましたが、2019年からセカンドシーズンとして、全12話を3回に分けて映画館で上映することが発表されています。「つづきは劇場で!」ということのようです。見に行く気になりましたか?

はじめに

石黒昇監督による旧作は、オリジナルビデオアニメとして映像化されて多くのファンに愛されました。本伝110話、外伝52話、劇場用長篇3作の長大なアニメーション作品は、SFアニメの金字塔といってもいいでしょう。

名作の誉れの高い石黒版が既がありながら、新たにアニメ化する勇気には感服しますが、アニメとしてはイマイチでした。アニメが始まる前は、「銀河の歴史がまた1ページ」というのが旧作の決まり文句でしたが、「黒歴史」にならないといいなと心配していましたが、その懸念は杞憂に終わりました。それほど悪くなかったですが、及第点には程遠い出来でした。

以下、分野別に見ていこうと思います。


『銀河英雄伝説 Die Neue These』第1弾PV

カニックとCG

最初から新作をボロカスに言ってもアレなので、まず新作で良かった点を挙げます。筆頭は、メカニックですね。Production I.GらしいCGを多用したアニメーションは現代風で見応えがありました。

宇宙艦隊のCGは「シドニアの騎士」のようでしたが、これが今風なのでしょうか。あれほど艦隊が密集するのかどうかと思いますが、画になるという意味では成功しているようです。自由惑星同盟艦載機スパルタンのメカデザインはコレジャナイと思いましたが、全体的には良かったと思います。

たしかにメカニックは素晴らしいのですが、それが銀河英雄伝説の本質でないことも指摘しておきたいと思います。ブリュンヒルトの発進シーケンスはしびれましたが、そこに長い尺を使うならほかにやることがあるだろうとは思いました。

キャラデザと声優

いちばん批判が多いのは、新作のキャラクターデザインだろうと思います。いかにも現代風とでもいいましょうか、黒子のバスケ」風といいますか、主要キャラクターがことごとくしゅっとしたイケメンになってしまいました。

とくに違和感があったのは、キルヒアイスがキツネ目の顔になったことです。子どもの頃のキルヒアイスは大きな瞳だったのに、大人になってどうしてこうなったと言いたいですね。この顔だとラインハルトを簡単に裏切りそうです。

あと声優の演技が平べったく、皆さん同じように聞こえたのも残念でした。豪華な声優陣を起用し「銀河声優伝説」との異名をとっていた旧作と比べるのも酷ですが……。

Binary Star/Cage(期間生産限定盤A)(『銀河英雄伝説 Die Neue These』盤)(DVD付)

世界観と脚本

新作の最大の問題点は銀河英雄伝説の世界観が描けていなかったことです。銀河帝国自由惑星同盟、そしてフェザーン三者の関係ががまったく伝わってきません。戦闘シーンより戦略的な面白さが銀英伝の醍醐味といえるでしょう。

さらに旧作が、銀河帝国の宮廷政治などの内部事情を丹念に描き、自由惑星同盟の建国の歴史に尺をとっていたのに比べ明らかに物語の背景について説明不足です。CGでブリュンヒルトの発進シーケンスを長々と描いている場合ではありません。

また局所的にも説明不足というか雑な脚本が目立ちます。いちいち説明しても仕方ないので、ひとつだけ例を挙げます。テレビ版のラストで自由惑星同盟が無謀にも「帝国侵攻作戦」を展開します。辺境民の「開放」を名目とする帝国領本土への全面侵攻です。そこでラインハルトが率いる帝国軍は焦土作戦をとり、辺境星域からの物資の引き揚げて、民に同盟軍の物資を吸い付くさせるという非情な作戦を実施します。

しかし新作では、帝国軍が物資を引き揚げる場面もなければ、辺境民と同盟軍との関係もほとんど描かれず、辺境地で何が起こっているのかわかりません。旧作では話数を使い、そのあたりを丁寧にに描いたのとは大違いです。このあたりは物語の肝だと思うのですが……。

これだけでなく、ここは大事だろうと思うポイントをことごとく華麗にスルーしながら物語が淡々と進んでいくのを見て暗澹な気分になりました。旧作というお手本があるのに、どうしてこうなったのでしょう。

WISH(期間生産限定盤)(DVD付)

まとめ

新作を見て大事な教訓を得ました。画がキレイでもアニメの面白さとは直結しないという事実です。当たり前のことですが、見逃しやすい教訓でもあります。

また原作に忠実だからといってアニメがそれでいいとは限らないということも指摘しておきたいと思います。活字で読むのとアニメは別ものです。それなりにアニオリを挿入するなど工夫が必要だということも教訓にしてもいいでしょう。

おそらく私は劇場版を見に映画館に行くことはないと思います。テレビ放送に降りてきたら見るかもしれませんが。

しつこく「旧作はよかった」というと、「旧作厨しね」「おっさん乙」とか言われそうですが、新作で初めて銀英伝に触れた人には、ぜひ旧作(石黒版)を見て比べてほしいと思います。ひとりで見てもいいのですが、願わくばAbemaTVなどでコメント付きで見る機会があればいいのにと思います。

若い人が旧作を見て何を思うのか感想を聞いてみたいです。