身も蓋もない本。遺伝、見た目、教育に関わる「不愉快な現実」を次々に明らかにする話題作。「努力は遺伝に勝てない」「子育ての苦労や英才教育の多くは徒労に終わる」など、これまえタブーとされていた「現実」に最新の科学的知見を用いて切り込む。
本書で「残酷すぎる真実」とされる内容は、従来から主にアメリカからの翻訳本で頻繁に触れられてきたものだが、日本人の人気作家が新書としてコンパクトにまとめたことの意義は大きい。なかには最初から結論ありきで翻訳書から都合のよい部分を抜粋したかなと思われるものもある。それぞれのテーマについては専門家からの反論もあるだろうが、一読の価値がある。
遺伝について言えば、学校教師が「努力は遺伝に勝てない」などというと公言すると確実に炎上するだろうが、この本では統計的に証明された「事実」とされている。いくら勉強しても遺伝的にダメな生徒がいるのならば、税金を投入してそうした生徒に過大な教育投資をするのはリソースの無駄ということになる。その分、社会保障にイロを付ける方がコストを最小化できるのかもしれないとも言える。
また社会的に地位が高い親のもとに生まれた子どもが優秀である事例が多いというのは誰しも実生活で体感していることだろう。これは塾に通わせたり子ども投資できるリソースが多いから子どもが優秀に育つという説明がなされることが多い。これに納得する人は多いだろうが、これが遺伝だからと片付けられるとさすがに心穏やかではないだろう。
遺伝ですべて決まることが社会通念として定着すれば、子どもは親に対して「父ちゃんの子どもだからダメなんだよ!」と平気に言い出すなど、まさに残酷な社会になるかもしれない。これはあまり見たくない図である。
しかし「努力は遺伝に勝てない」のが真実であるとすれば、ムダな努力はやめて別の生き方を模索する方が、当人にとっても社会にとっても幸せなのかと思えてきた。まあこうした考えは読者の心のすみにしまっておくが無難のようだ。