あとがきで心ならずも「英語の学び方」と書いたとあるが、即効性のある単なるハウツーではなく英語学習の方向性を示すものとして興味深い。次のような内容だ。
- 発音はハチャメチャと完璧の間を狙う(ネイティブを目指さない)
- 語彙を増やすためには、とにかく「たくさん」読む(やっぱり多読)
- 文法がまちがっていると「教養がない」と思われる(文法は大事)
- 好きなこと、関心があることで英語を学ぶ(英語「で」学ぶ)
それほど新しいとは思えないが、いまの学校教育でなおざりにされていることばかりに思える。同時に一朝一夕で身につくものではなく不断の努力が求められることも分かる。筆者の学習法もいくつか紹介されいて参考になる。ただし専門家から見ても「楽な方法なんてない」というのが事実のようだ。
しかし、この本が読者がこうした苦労をいとわずに英語を身につける気になるだろうかというと疑問がある。本書の冒頭にデジタルデバイドと対比させて「英語格差」を取り上げている。たしかに英語ができないと情報弱者になる場面を多くなったが、それでも膨大な学習時間を費やして英語で情報収集できるほどのモチベーションを保てるだろうか。
いまでも大学受験や就職活動、昇進試験などの人生の岐路で一定の英語力を証明しないといけないシーンはあるだろうが、これはこの本でいう「本物の英語力」とは違うようだ。そもそも日本の現状は、フィリピンのように英語ができないと高等教育が受けられず、スラム街から抜けられないのとは根本的にちがう。
問題は、それでも英語学習者に英語を学習することのメリットを納得させることができるにかかっている。この本でも「馬を水飲み場に連れて行くことはできるけれど、水を無理に飲ませることはできない」(You can lead a horse to water, but you can't make it drink.)ということわざと引いている。
もっともこうした問題は近い将来に別の形で解決するかもしれない。グローバル化がさらに進行すれば英語ができない人はカス扱いにされる時代も遠くない。都心ではすでに英語で仕事する人と英語がそれほどできないバックオフィススタッフが同居しているオフィスもある。もちろん待遇は段違い。
英語ができないといい暮らしができないとなれば、筆者の思うところは違うだろうが、英語学習者のモチベーションの問題は一気に解決する。そんなことを思って読了した。