人工知能が飛躍的に進化した時代に人間はどのように働き、生きていくべきかを説いた本です。人工知能が注目を集めるなかタイムリーな内容です。
しかし脳科学者としての知見をベースに人工知能のしくみから論を展開していくわけではなくもっぱら自らの経験による示唆が中心なのはやや期待はずれです。気軽な読み物として読むのがよいでしょう。
この本では「人間らしい働き続ける5つのスキル」として次のスキルを揚げています。
- コミュニケーション
- 身体性
- 発想・アイディア
- 直感・センス
- イノベーション
読んでいくと、それぞれなるほどと思いますが、ここでは茂木さん自身について興味深く感じたことをいくつか列挙します。
まず、「人工知能相手に能のスパーリングをする時代が到来」するといい、囲碁の例を取り上げている点です。茂木さんは人間相手に対局した経験はほとんどないが、囲碁アプリでアマ有段者の実力を身につけたそうです。ネットの囲碁番組で茂木さんの対局を見ていて「強いなぁ」と思ったので、かなり説得力がありました。そのうち人工知能が指導碁を打ってくれるようになるかもしれませんね。
もうひとつは、人間が磨きをかけていきたいスキルとは「身体性」だといい、茂木さんは、朝、時間があるときは必ず走るようにしているとのこと。ときには10キロ走ることもあるそうです。フルマラソンを完走した経験もあるらしい。失礼ながら茂木さんは運動とは無縁な印象があったので正直驚きました。
これに関連しますが、「英語の勉強も身体性がカギになる」という指摘には納得しました。語学はスポーツと同じという人は多いし、脳科学的に言えばバイリンガルで英語を話せる人は認知症になりにくいというのも腑に落ちます。また、機械翻訳が進化しても英語を勉強することのメリットはなくならないというのも説得力があるように感じました。
この本では、人工知能技術にガチでアプローチしているわけではないので、その点は物足りませんが、エッセイとして読む分には示唆に富む内容なので面白く読めるでしょう。