退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

「第3回 将棋電王戦」を見終わって思ったこと3つ

ようやくニコ生のタイムシフトで「第3回 将棋電王戦」(全5局)を見終わりました。結果はプロ棋士の1勝4敗。A級棋士を投入したものの人間側の敗北でした。個人的には森下卓九段が相矢倉で負けたのがショックでした。

しかも今回、対戦ソフトウエアを事前にコンピューターごと棋士に貸し出すという、かなりプロ棋士側に有利なレギュレーションでの結果です。その上、使用されたのはコンピューターは特殊なものではなく市販されている汎用のコンピューターでした。

コンピューターサイエンスでは「有限な探索空間での思考はコンピューターにかなわない」というのは定説ですから、将棋でコンピューターがプロ棋士を凌駕するのは時間の問題でした。しかし、いざそのときを迎えるといろいろ思うことがあります。以下、3つ挙げてみます。

どのようにしてコンピューターは強くなったのか

パソコンの黎明期に「森田将棋」という将棋ソフトでずいぶん遊んだことがあります。素人が指していても「なんだこりゃ」という程度のものでしたが、将棋ソフトはあれよあれよという間にプロ棋士に伍するまでに強くなりました。その軌跡や技術的ブレークスルーがどこにあったのかを知りたいと思いました。

以前、94年に出版された松原仁『将棋とコンピュータ』をいう本を興味深く読みました。また当時購読していた雑誌『bit』(共立出版)でもコンピューター将棋が取り上げられていていた記憶があります。あまり専門的でも困りますが、少しソフトウエア工学をかじった程度の人を対象にしたコンピューター将棋の歴史を振り返るような書籍が出ないかと期待しています。

将棋とコンピュータ (情報フロンテイアシリーズ)

将棋とコンピュータ (情報フロンテイアシリーズ)

今後の電王戦はどうなるのか

今回は大手スポンサーがついてイベントとしては成功したように見えます。将棋をあまり知らない人にとっても、エンターテイメントとして十分楽しめる工夫がありました。では今回の対戦結果を踏まえて、次回の「電王戦」はどうなるのでしょう。果たして開催されるのでしょうか。

当然、勝負が一方的ではつまらないですから、レギュレーションを変更してプロ棋士と将棋ソフトが拮抗するようにしたいでしょう。将棋でハンデ戦というと駒落ちということになりますが、プロ棋士がソフト相手に香車を引くというのも絵にならない気もします。囲碁の置碁やコミみたいに、細かくハンデを設定できればいいのでしょうが……。今後に動きに注視したいと思います。

将棋界に影響はあるのか

コンピューターが人間を凌駕しつつある状況は将棋界にどのような影響を与えるのでしょう。興味は尽きません。

これまでプロ棋士の神秘的とも言える棋力が将棋界を支える源泉でした。しかし、将棋ソフトがプロ棋士を打ち負かすという現在の状況は、誰しもコンピューターの助けを借りてプロ棋士並みの棋力を持つことができることを意味します。そのうち、スマートフォンのアプリがプロ棋士を翻弄する時代がくるでしょう。

そうなったとき、将棋ファンはいままで通りに将棋という競技に興味を持ち続けることができるでしょうか。将棋離れが起きないのかという懸念です。ファンが将棋から離れれば、多額の賞金が掛かっているタイトル戦も存続できるかあやしいし、プロフェッショナルとしての将棋指しの存在すらも危うくなるということもありえます。

おわりに

産業革命以来、“機械 vs. 人間”という文脈で機械の発達が語られてきました。自分の職業は安泰だよね、と胸を張ることができる分野がどんどん少なくなってきています。いわゆる「知的職業」と言われる職業も例外ではありません。今回、まさかと思われたプロ棋士が機械に追いぬかれつつある現実をみると、若い人の職業選択は大変だなと思わざるを得ません。自分は逃げ切れるかしらん。