退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』(2018) / 沖縄返還をめぐる実在の外交官の真実

新文芸坐の《気になる日本映画達〈アイツラ〉2018》で映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』(2018年、監督:柳川強)を鑑賞。原作は宮川徹志のドキュメンタリー『僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫』である。当日は沖縄関連作品の二本立てだった。

1972年の沖縄返還当時の外交資料が公開されて明らかになった、アメリカとの沖縄返還交渉の経過を実話を基にして描いたストーリー。アメリカと沖縄の両者の交渉に大きな役割を果たして実在の外交官・千葉一夫(井浦新)と、彼を支えた妻(戸田菜穂)を描く。

映画を見ていてどことなくテレビドラマみたいだと思ったが、後でNHKで放送されたドラマがもとになっていたことを知る。出演者の顔のアップを多用する構図のせいかもしれない。大きな映画館のスクリーンには向かないようだ。

一方、映画館で見てよかったのは沖縄米軍基地の騒音である。B-52爆撃機やF-4ファントムの轟音の音圧がすごい。これじゃ住民はたまったものではない、と思わせるのに十分。


井浦新 主演『返還交渉人 いつか、沖縄を』予告

出演者では、主演の井浦新の演技は熱いが一本調子なのにはいささか閉口したが、意外によかったのは妻役の戸田菜穂。挫けそうになる千葉を励ます姿はちょっとよい。パパとママとそれぞれ呼び合う睦まじい夫婦の姿がよく描けている。しかも戸田菜穂の英語がいちばん上手かったのではないか。

劇中、千葉が交渉相手の米国高官夫婦を自宅の官舎に招くシーンが面白い。いかにも昔の団地の一室。高官夫婦があまりの狭さに驚く場面が印象に残った。本省の課長の官舎がこんなに狭いのか大いに疑問だが……。

また大友良英のジャズを用いた劇伴や当時の実際の映像が効果的に使われていたのは評価できる。

この映画では千葉は「密約は絶対ダメだ」と強く主張し、沖縄の基地負担軽減に全力をあげていた。しかし結局、返還時に密談は結ばれたし、いまなお沖縄に重すぎる基地負担を強いている。一課長の力ではどうしようもなかったのであろうが、どうも釈然としない。

「鬼の千葉なくして沖縄返還なし」と言わしめたとされる。千葉が奮戦している様子はよくわかるが、高次の政治レベルで返還が決まったのではないか。千葉の行動が政治にどのように作用したのかを丹念に描いてほしかった。その点はやや物足りない。

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