退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『痴人の愛』(1960) / 叶順子が体当たりで演じた大映映画

角川シネマ新宿の《大映創立75年記念企画 大映女優祭》で、映画『痴人の愛』(1960年、監督:木村恵吾)を鑑賞。谷崎潤一郎の同名小説の映画化。木村恵吾監督が京マチ子版につづいて再映画化に挑んでいる。叶順子が体当たりの演技を披露しているのにも注目。

痴人の愛』は、大映で3度映画化されている。内訳は以下のとおり。本作はそのなかの2回目の映画化作品。

公開年 監督 ナオミ役 河合譲治役
1949 木村恵吾 京マチ子 宇野重吉
1960 木村恵吾 叶順子 船越英二
1967 増村保造 安田道代 小沢昭一

ともすると変態的な映画になりがちな原作だが、本作は自然な映画に仕上がっているのは美点。三作のなかでは一番映画としての出来がいいと思う。

ナオミ役の叶順子がなかなかいい。アルサロ(死語!)で働いていたいう設定。当時としては肉体派だったこともあり抜擢されたのだろうが、三作のなかではいちばん色気があり男好きするナオミをよく演じている。適役に思える。ラスト近くで美容院に行って雰囲気が変わるところがちょっといい。ラストはやっぱり譲治(船越英二)馬乗りになって終幕。

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原作は1920年代の小説だが、映画では現代(公開当時)に翻案されていて、譲治は電機メーカーの技術者として働いていて、ナオミはMG(外車)を乗り回している。

60年代という時代も作品にあっている。日本が豊かになってきた時期であり、原作小説のモダニズムを基調とした雰囲気に追いついてきているのだろう。実際の日本はまだまだ貧しかったが、映画のなかの美術や衣装は観客のあこがれだったのかもしれない。

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痴人の愛」(1960年)

なお三番目の増村版は強烈な印象を残すものの監督のクセが強くて変態的ですらある。ネタとしては面白く見れるが、本作のような自然さがないのが難点。また安田道代はやはりイメージとちがうだろう。

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いままでソフト化されていなかったので、見たいと思いながら見れなかった映画だったが、今回ようやく叶順子版を見ることができた。「大映女優祭」万歳!


「大映女優祭」予告編