退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

『沈まぬ太陽』(2009)

近くのシネコンで「沈まぬ太陽」(2009年、若松節朗)を観る。山崎豊子の同名小説の映画化。主人公の恩地を渡辺謙が演じている。

沈まぬ太陽 スタンダード・エディション(2枚組) [DVD]

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途中に休憩がある映画館泣かせの長尺な映画だが、長大な原作を3時間超程度でまとめるのは無理だったようだ。ストーリーをなぞることに汲々として、まるでテレビドラマの総集編を見ているようだ。全体として表層的な捉え方で物語に立体感がない。破綻なく無難にまとまっているとも言えるが、映画としてのおもしろさに欠ける。

それでも個々の映像には見るべきものもある。例えば、「飛行機事故現場」「被害者の棺が並ぶ体育館」、そしてラストの「アフリカの太陽」などは、大きなスクリーンで見る価値がある。その一方で、飛行機のCGが水準以下で貧弱なのはどうしたことか。飛行機が重要な役割を果たす映画なのに、あれだけ低品質だと観ていて興がそがれる。

出演者のなかでは、主人公を演じた渡辺謙が良くも悪くも突出している。長い上映時間にもかかわらず、飽きずに見られるのは、渡辺の〈濃い演技〉に依るところが大きい。しかし、その演技に応えるだけの共演者がいなかったとも言える。本来なら三浦友和がその役回りなのだろう。悪役を演じる意外性があったものの、渡辺と堂々と対峙するまでには至っていない。他の出演者では、木村多江が期待を裏切らない。彼女には「不幸の女王」の称号を与えたい。

山崎豊子の映画化と言えば、どうしても「白い巨塔」「華麗なる一族」「不毛地帯」といった山本薩夫監督の作品を思い出す。製作当時の時代背景もちがうので安易に比較はできないだろうが、この作品は明らかに社会性というか批判精神が欠けている。事故原因や国民航空の問題点を、映画のなかでさらに踏み込んで言及する姿勢がほしかった。かといって娯楽路線に振っているわけでもなく中途半端なのだ。

現在、日本航空の経営危機がさかんに報じられている。先行きはいまだ不透明だが、数年後、一定の決着を見たあと、「この映画で描かれたとおりの会社だったね」と本作が評価される可能性があったはずだ。毒にも薬にもならない生温い映画だったのは、いかにも惜しい。

また主人公がなぜ会社を辞めないのかという疑問が残る。事故の被害者や遺族に接するようになってから、人生観が大きく変わったと解釈できなくもないが、それ以前に、執拗な報復人事が受けた時期に辞めるのが自然ではないか。いまなら、さしずめアメリカの大学でMBAを取ってキャリアを再スタートする、というところか。やはり説明が不足しているように感じた。

そのため主人公に共感できないままに、ラストのアフリカの太陽を背景に彼のモノローグを聞いても、とってつけたような浅薄な印象しか残らない。その点だけとっても、この映画化は失敗だったと言わざるをえない。期待が大きかっただけに残念だ。