退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『それから』(1985) / 森田芳光による夏目漱石作品の映画化作品

YouTube東映シアターオンライン」チャンネルで配信されていた、映画『それから』(1985年、監督:森田芳光)を鑑賞。夏目漱石の同名小説の映画化作品。主演は松田優作

帝大卒の長井代助(松田優作)は、30歳過ぎになっても定職にも就かず、父(笠智衆)や兄(中村嘉葎雄)の援助により何不自由のない暮らしをしていた。ある日、大学時代の親友の平岡(小林薫)から手紙が届き、勤めていた銀行の地方の支店を辞めて、3年ぶりに東京に帰るという。代助がかつて思いを寄せていた平岡の妻・三千代(藤谷美和子)も戻ってくることになる……。


www.youtube.com

あまりにも有名な古典名作の映画化なので、当然ストーリーを知っているなかで映画を見ることになる。ラストも当然知っているわけだ。この映画に限らず文芸作品の映像化作品の難しさはこの点だろう。

この映画はキャスティングの妙が肝だろう。主要登場人物は、松田優作藤谷美和子小林薫という意表をつくキャスティングになっている。松田優作は、およそ明治時代のインテリ、いわゆる高等遊民には見えないし、小林薫が扮した平岡もどこかちがう気がする。また、元祖プッツン女優として知られた藤谷美和子がヒロインなのはどうかと思ったが、彼女を綺麗に撮られていることはこの映画の美点だろう。とにかくキャスティングが作品上に色濃くでている。

当時、自主映画の旗手と目されていた森田芳光の監督作で、奇抜な演出がなされるかと思ったが、意外にもオーソドックスで落ち着いた演出で撮られている。小津作品の影響すら感じられた。一部、障子に映る影が赤色になるなど、遊び心が散りばめられているのは愛嬌だろう。

概ね漱石作品の雰囲気が出ていて楽しめるのだが、ラストで父に勘当を言い渡されて部屋を出るところで終わっているのはいただけない。代助が実家からの援助を打ち切られて、これからは世間と対峙して自活していかなければならないという決意を描いてほしかった。その点は物足りない。