退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】隅田英一郎『AI翻訳革命 ―あなたの仕事に英語学習はもういらない―』(朝日新聞出版、2022年)

ここ数年で急速に性能向上を見せている「自動翻訳技術」の最新動向を紹介するだけでなく、今後の教育への影響にまで言及している。タイトルに惹かれて手にとったが面白く読んだ。

この飛躍的な性能向上には人工知能の技術進歩が背景にあるわけだが、そこまでに至るまでの自動翻訳開発の歴史がとても興味深い。ルールベースはここでもダメだったか……。

私自身は数年前までは「人工知能とか片腹痛いわ」と思っていたが、囲碁人工知能が人間を完膚なきまでに叩きのめしたのを目の当たりにして、さすがに考えを改めなければいけないと思った。まあ囲碁のようなゲームはいずれはコンピューターが勝つのは想像できたが、これほどはやくに「Xデー」が来るとは思わなかったからだ。

しかし「言葉」はどうだろう。言葉と思考の関わりは昔から論じられてきたが、この本を読む限りはいまのところコンピューターは思考を持つというわけではないようだ。かんたんに言えば単なる機械である。平気でトンデモナイ誤訳を吐き出すこともある。

それでもGoogle翻訳やDeepL翻訳といったルーツでさえ役に立つルールであることはまちがいなく、上手に使えば仕事の生産性を上げることができる。これからは英語そのものより、翻訳ツールの使い方を習得したほうがいいのだろうか、とさえ思えてくる。

本書を読む前にいちばん興味あった教育への影響については、最終章「自動翻訳と英語教育」でわずかに触れらているだけで物足りない。「自動翻訳が進化するなかで、英語学習はどこまで必要なのか」という問いは注意深く考えていくべき問題提起である。

さて、今後凋落していく日本にあって、個人としてどのように生き残りを図るべきだろう。そうしたことを考えると、やはりグローバル化という道しかないように思える。実際、富裕層は子弟を英語圏で高等教育を受けさせる事例もめずらしくなくなった。

一方、自動翻訳技術の進歩に伴い、これまで英語学習に投資していた分を他の分野に振り向けるという考え方もある。私自身は外資系企業で働いていたこともあり、英語にかなり投資してきたが、英語学習で得られるメリットは実用面だけでないようにも思える。

子どものある家庭はとくに、英語学習にありかたついて文科省まかせにしないで自分自身でよく考えてみる必要がある。まあいまのところ英語ができないと、日本ではまともな大学に行けないので否が応でも勉強するしかない。今後、日本の教育界でもそうした固定概念を覆されるターニングポイントを迎えるのだろうか。