DVDで映画『球形の荒野』(1975年、監督:貞永方久)を鑑賞。前年公開の『砂の器』をヒットを受けて製作された松本清張の原作による映像化作品。主演は芦田伸介。
野上久美子(島田陽子)は、一人大和路を旅していた。そこは、終戦前に欧州の任地で客死した父がこよなく愛した所で、彼女は婚約の報告にやってきていた。ところが、ある寺院の拝観者芳名帳を見て驚愕する。そこには亡父・顕一郎(芦田伸介)そっくりの筆跡の署名が記されてあった……。
戦争末期、国や妻子をも捨てて、終戦工作に奔走して祖国を破滅から救った外交官の運命、そして父娘の絆を描いた壮大なドラマ。
原作は未読だがスケールの大きな長編推理小説。しかし、物語のスケールのわりに映画の尺は短く小品である。父親の関わった知られざる近代日本史にも興味があるが、それにはあまり触れることなく、もっぱら父娘の関係に焦点が当てられている。
丁寧につくられていて、手堅い演出には好感は持てる。主演の芦田伸介の重厚な演技がドラマに厚みを加えている。佐藤勝の乾いた劇伴もいい。
今回、この映画を見直そうと思ったのは、先日亡くなった島田陽子を追悼するため。父娘の関係を描いているので出番は多いが、ロケが多いせいもあり、あまりキレイに撮られていないのはやや不満。もう少し照明や衣装に気を配ってほしかった。
ラストで「七つの子」を合唱して父娘の絆を取り戻すシーンは、ロケ地の美しい景観とも相まって泣かされる。ベタだけれど後味はよい。