講演をもとに元東大全共闘代表の筆者が1960年の安保闘争からの歩みをまとめた回顧録。手に取りパラパラ見ると、当時のアジビラなどの貴重な資料が目立つ。
自らの経験による「ベトナム反戦運動」「安田講堂占拠事件」が目玉だが、その他にも「理工系ブーム」「軍学共同」そして「原発問題」など多岐に渡るテーマについて意見が述べられていて、一貫して平和への思いが感じられる。
筆者は1960年に東大に入学し、1970年に逮捕・勾留される。物理学者として将来を嘱望されるが、学生運動の後に大学を去り、研究生活に戻ることはなかった。まさに「私の1960年代」である。
読後の第一印象は、筆者は政治的に意外にナイーヴだったのでは、ということ。いいように東大全共闘代表に祀り上げられてしまい、取り返しのつかないほどの深みにはまったのではないか。
当時の学生運動が少しでもいまの社会に役立っているとすれば、少しは救いはあるのだが、まったくその気配は感じられない。むしろ学生運動に関与していた世代だけ、政治意識が他の世代と異なり、投票行動でもそうして傾向があるという。特異点と言ってもよく、もはや老害と言われる始末。
個人的に面白かったのは「その後のこと」という学生運動以後を語っている章だ。予備校講師になる前に零細ソフトウエアハウスでNASDA関連の仕事をしていたことは初めて知った。予備校講師の他にも、卓越した数理の才能を活かしてガッポガッポ稼ぐ生業もあったのはないかとも思った。
長年沈黙を守っていた筆者が、なぜいまになって回顧録を出そうと思ったのか分からないが、確かにこの本には歴史的な意義がある。思うところは世代によってもかなり違うだろうが、いまの大学生がこの本を読んでどう思うだろう。「学生運動で一生を棒に振った男の心の叫び」と言うのだろうか。
余談だが、私にとっての著者はやはり予備校講師だ。受験参考書からでも彼のすごさが分かるというものだ。