「語彙の広さはその人の教養を表し、若者言葉や語彙の狭い人は教養が低い」という前提から始まっています。さらに若者は語彙力は低下していて心配であるともいいます。
- 作者: 齋藤孝
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2015/12/10
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (4件) を見る
なるほどと思わないわけでもありませんが、実証的なデータはまったく提示されていないことに注意が必要です。筆者がそう感じているという以上のものではありません。
読み始めた時点では大学のセンセイなので長年の調査データに基づいた分析かと思いましたが、学術的な根拠は皆無であり、ただのエッセイとして読むべき本です。
この本では筆者の言うところの「語彙力」を鍛えるための方法論と推薦書が紹介されていているので試してみる価値はありそうです。とくに推薦書は参考になります。巻末に推薦書リストがあるとさらに便利だったかもしれません。
余談ですが茂木健一郎も「日本語の力を維持するために、折に触れて夏目漱石の小説などを読み返し、スパーリングすることを心がけている。」(『頭は「本の読み方」で磨かれる: 見えてくるものが変わる70冊』より)と書いているので、漱石は語彙力向上によく効くのかもしれません。
しかし根本的に、せっかく語彙力を鍛えても通じるやつばかりじゃないだろうという疑問があります。「泣いて馬謖を斬る」など言っても、相手に「はぁ?」と返された日にには目も当てられません。周りはバカばっかりですから注意が必要です。かえって’「こいつは難しいことばっかり言いやがって」「いい学校出てるからといってオレをバカにしているのか」と言われるの関の山です。
大切なのは相手に合わせてコミュニケーションをとるスキルじゃないでしょうか。ドストエフスキー、夏目漱石、中島敦などを読んで「語彙力」を鍛えても、それを忘れちゃオシマイですよ。こういうことが分からないのは、いつも学生相手に上から目線で発言できる大学教員の職業病でしょうか。センセイも一度はバカばっかりの職場も体験してみてください。