歴史上の人物を題材に映画を撮ってきたアレクサンドル・ソクーロフ監督が、ヒトラーやレーニンに続いて昭和天皇を描いたのが映画『太陽』(2005年)です。DVDで見直しました。大戦末期から人間宣言あたりまでの昭和天皇をイッセー尾形が演じています。ロシア映画ですがセリフは日本語と英語。
今年は平成27年。リアルタイムで昭和天皇を知る人も年々少なくなっています。私自身も高齢の昭和天皇しか知りませんが、イッセー尾形はよく特徴を捉えているように思えます。「あ、そう」という口ぐせも印象的ですが、ものまねに留まらない役者の挟持が伝わってくるようです。
映像には「ここはどこの日本ですか」と言いたくなる場面もありますが、霧がかかったようなソクーロフ独特の映像は健在です。とくに印象深かったのは、昭和天皇の悪夢のなかで描かれる東京空襲です。爆撃機が魚、そこから落とされる爆弾も魚という不思議な映像として表現されていてます。
また昭和天皇とダグラス・マッカーサー(ロバート・ドーソン)との二人芝居も見応えがあります。昭和天皇は見事な英語を話し、通訳なしで会談が進みます。趣きのある英語劇が展開されます。
終盤、皇后(桃井かおり)が疎開先から皇居に戻り二人で喜びあう姿に、人間としての昭和天皇が集約されています。皇后の口から「あ、そう」という言葉が発せられるのもうまい演出です。
余談ですが、この映画は2006年に日本で公開されたとき映画館に見に行きました。都内での上映館は、いまはなき銀座シネパトスだけという文字通り単館上映でした。銀座シネパトスには随分通いましたが、この映画が上映されたときが最も活況だった記憶があります。