退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『江戸川乱歩の陰獣』(1977) / 乱歩の雰囲気が伝わる傑作

新文芸坐の《生誕100年・加藤泰》で映画『江戸川乱歩の陰獣』(1977年)を鑑賞。 江戸川乱歩の中編小説「陰獣」を原作に、加藤泰監督が初の探偵ものに挑戦した作品。

乱歩の探偵小説だが明智小五郎は登場しない。探偵小説家・寒川(あおい輝彦)と人妻・静子(香山美子)の情念を描く。推理小説なのでネタバレは止めておこう。

この映画の最大に見どころは香山美子(かやま・よしこ)だろう。フェロモン全開の香山に瞠目したい。長年、松竹を支えてきた彼女がこの作品ではヌードを披露し、さらにこの映画の重要なテーマであるSMシーンにも果敢に挑んでいる。香山はテレビ時代劇・銭形平次」(大川橋蔵版)で平次の妻・お静役で知られるが、この映画が公開された時期にもお静を演っていたはずで平次の妻が脱いでよかったのか。

映像的にはラストに寒川が静子を相手に謎解きする場面の赤い部屋が印象的で、実に加藤監督らしいと思った。他には劇中劇の「パノラマ(なんとか)」(「パノラマ島綺譚」がネタ元か)というエキセントリックな芝居が面白かった。実際に観劇してみたい。

江戸川乱歩の作品は何度も映像化されているが、ともすればエログロ路線に走りがちである。これに対し本作では乱歩の雰囲気がよく出ていると思う。見る機会は少ないかもれないが乱歩ファンにも一度見てほしい。

余談だがエログロと言えば、天知茂の「江戸川乱歩の美女シリーズ」でも「陰獣」は「妖しい傷あとの美女」というタイトルで映像化されている。このときの静子役は佳那晃子。Huluには「江戸川乱歩の美女シリーズ」が歯抜けで6作品だけ配信されているが、「妖しい傷あとの美女」はなかった。本作と見比べてみようと思ったが残念。