- 作者: 森功
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/05/27
- メディア: 新書
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首都圏に住む多くの人は、海外へ飛行機で出かける際、なぜ成田くんだりまで出向かなければならないのか不満に思っている。この「成田と羽田」の問題は、空港関連の問題のなかで、いちばん身近で関心のある問題かもしれない。本書でも、この問題について、とくに新しい視点は感じられないものの、丁寧に論じて問題点を明らかにしている。
また地方空港については、空港ごとの収支がこれまで明らかにされていないことにまず驚いた。ここでも「空開特会」という特別会計のからくりで、首都圏空港の利用者の負担により、地方空港が赤字経営にもかかわらず、これまで維持されていた事実が浮き彫りにされる。
このモデルは、高速道路やかつての国鉄の場合と似ているが、空は外国と繋がっていることが大きく違うようだ。「オープンスカイ」という航空業界の自由化の波により、空港を取り巻く状況が大きく変化しつつある。日本は完全に出遅れており、さまざまな制約を考えると今後もきびしい競争が強いられることになりそうだ。自由化といっても、さまざまな段階があり、航空業界では、第1から第9までランク付け(p.71)しているのは、初めて知る。
また苦戦が伝えられる地方空港のなかで、能登空港が地元の経営努力により善戦している(p.176)ことや、ルクセンブルクの貨物キャリアのカーゴルクスの就航により、貨物空港として小松空港が活況を呈している(p.212)という事例が紹介されていて興味深い。
この本が出版されたのは、2009年5月で政権交代の前である。その後、新政権により、「空開特会」の見直しが表明されたり、羽田空港の第4滑走路の完成に伴う国際化議論、そしてJALの経営不振の深刻化など、航空業界をめぐる状況はめまぐるしく変化している。
今後、地方空港が廃港になったり、航空業界の再編などが起こったりするだろうが、そうした報道に接する前に、この本でこれまでの問題を整理しておくと理解が深まると思われる。
それにしても、羽田発の国際路線が増えることを期待したい。成田は遠すぎる。