退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

大型時代劇スペシャル「忠臣蔵・女たち・愛」が濃かった

年末年始の録画番組を消化中。1987年の年末に放送された時代劇スペシャル「忠臣蔵・女たち・愛」を見てみた。原作は橋田壽賀子、プロデューサーは石井ふく子

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討ち入り3日前から吉良邸討ち入りまでをを描く前編「雪の章」と、討ち入りから翌年2月4日の四十七士切腹に至る五十日余を描く後編「華の章」の二部構成。脚本は橋田壽賀子(前編)、田井洋子(後編)。赤穂浪士の家族・恋人ら、女性たちの視点から忠臣蔵を描いた異色作。

いくつもストーリーラインが並行して進行する群像劇の形式だが、登場人が多いにもかくわらず発散することなく、それぞれの出演者の見せ場がちゃんとある密度の高いドラマとして成立している。

女優中心に3つストーリーラインを拾ってみる。

第一は池上季実子。浪士・吉田忠左衛門の娘ゆき役。身分を隠し吉良屋敷に奉公して情報収集していたが、吉良家家臣(沖田浩之)と愛し合うようになる。討ち入りの前に父から屋敷が出るように言われるが、当日屋敷に留まり戦闘に巻き込まれて死亡し、相手の沖田浩之も討ち死にしてしまう。美男美女のカップルで見栄えがする。

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第二は大原麗子。きぬ役。きぬと浪士・矢田(伊武雅刀)は将来を誓いあった仲だったが、赤穂事件によりあえなく破談になう。その後、浪士たちの活動資金調達のために大店に嫁ぎ、店のカネを少しずつ横領して浪士たちを陰から援助する。横領がバレて不倫の気配を察して怒り狂った夫(角野卓造)に折檻されるシーンがよい。討ち入りのあと、切腹する矢田を思いながら横領の罪により刑場に散る。

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第三は長山藍子。浪士・大高(小野寺昭)が行きつけのうどん屋の女将きぬ役。きぬは大高に思いを寄せて、浪士たちに便宜を図る。大高もそれに応じて討ち入り前にきぬに句集を遺す。討ち入り後、うどん屋に大高の妻・そめ(紺野美沙子)が大高のツケを払うためにうどん屋を訪ねる。本妻の余裕と武家の妻の風格を見せつける紺野が適役。きぬが句集をそめに渡して、しょんぼりするあたりもなかなかいい。

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この他にも小林綾子が「クララが立った」ばりに歩き始めたり、有森也実が婚儀が破談になって入水したり、妊娠した小川知子が浪士の小林稔侍を脱落させたり、いくつもエピソードが多重的に進行する脚本が素晴らしい。

男たちは本懐を遂げてそれでよいが、女たちはたまったものではない。そうしたェミニズムに立脚した異色の忠臣蔵でいかにも橋田らしい。それでも討ち入りのチャンバラがきちんと描かれているのがよい。とても濃い「忠臣蔵」だった。