退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『赤い陣羽織』(1958) / 歌舞伎座製作の民話仕立ての喜劇

シネマヴェーラ渋谷の《女優 有馬稲子》 で映画『赤い陣羽織』(1958年、監督:山本薩夫)を鑑賞。原作は木下順二による戯曲。中村勘三郎の映画初出演作。タイトルにある「赤い」を活かすためか、カラーの松竹グランドスコープで撮られた。今回は併映の『はだかっ子』を目当てで出かけたが拾い物だった。

女好きの代官(17代目 中村勘三郎)が、権力を傘に来て、水車の番人・甚兵衛(伊藤雄之助)の女房・せん(有馬稲子)に言い寄るが、その代官は実は恐妻家で家では妻(香川京子)に頭が上がらなかった。村祭りの夜、村の風習に便乗したエロ代官がせんに夜這いを仕掛けるが、いつの間にか代官とせんの夫が入れ替ってしまう。夫の浮気を察知した代官の妻は、ここぞとばかり代官を懲らしめる。

肝心の有馬稲子は、代官から横恋慕される美人妻を演じていてとても美しい。町家の出身で夫に命を助けられたという設定だったが、農夫の妻には見えないほど際立っている。代官がものにしようとするのも納得だ。

タイトルの「赤い陣羽織」というのは、代官が着用している先祖から伝わる立派な陣羽織で、いわば権力の象徴である。ラストで代官は役目替えになり行列をあつらえ城中に転勤していくが、妻に国境までは陣羽織の着用を許される場面はちょっと面白い。よくできた民話仕立ての喜劇で、権力批判のテイストも備えている。

恐妻家の代官と妻とくれば、現代では安倍首相と昭恵夫人を想起させる。ネタは山のようにあるだろうから風刺映画のひとつでも撮ってほしいものだが、そういう時代ではないのだろう。

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