新文芸坐で映画『否定と肯定』(2016年、ミック・ジャクソン監督)を鑑賞。ボラ・E・リップシュタットの書籍を原作として、実際にあって「アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件」を基にした作品。レイチェル・ワイズ主演。
- 発売日: 2018/06/20
- メディア: Blu-ray
アメリカの大学で教鞭を執るリップシュタット(レイチェル・ワイズ)は著書のなかで、「ホロコーストはなかった」と唱える英国の自称歴史学者アーヴィング(ティモシー・スポール)を痛烈に批判する。するとアーヴィングは英国国立裁判所に彼女を名誉毀損で訴える。リップシュタットは、ランプトン(トム・ウィルキンソン)ら弁護団を結成して法廷に臨む。しかし英国の司法制度では被告側に立証責任があるという……。
Denial Official Trailer #1 (2016) - Rachel Weisz Movie HD
最初、ホロコーストが実際にあったことを立証するには、アウシュビッツの生存者に証言してもらえばいいのではぐらいに思ったが、話はそう簡単ではなかった。詳しくは映画を見てほしいが、弁護団はリップシュタットも生存者にもいっさい証言をさせないという法廷戦術をとる。
ちょっと分かりにくいが、この裁判の争点は「ホロコーストがあったどうか」ではなく、「アーヴィングが事実を知っていたのに意図時に曲解してウソをついていたかどうか」ということである。名誉毀損を争う裁判だから当たり前ではあるが、ぼんやり見ていると誤解するかもしてない。
この裁判には、被告側がそれを立証しなけばいけないという難しさがある。結果的にはもちろんリップシュタット側が勝訴するが、過程は映画で確認してほしい。
本作は基本的に法廷劇であるが、見慣れたアメリカの法廷とは違うイギリスの法廷の雰囲気は趣がある。法廷描写はよく撮れている。しかし歴史修正主義という最も重要なテーマがなおざりにされた印象はある。なぜアーヴィングはウソをついていたのか。さらには歴史修正主義者とはどんな人たちなのか。もっと深掘りをしてほしかった。
出演者ではリップシュタットを支えたベテラン弁護士を演じた名優・トム・ウィルキンソンの演技がすごい。一見やる気なさそうだが、いざとなると頼りになるという安心感はさすが。リップシュタットとの信頼関係を築いていくプロセスもいい。
日本社会も、南京事件や慰安婦問題など歴史修正主義が関係しているとされる問題を数々抱えている。この映画は、そうした問題を考え直してみる契機になるかもしれない。