新文芸坐の《気になる日本映画達<アイツラ> 2016》で映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年、監督・脚本:岩井俊二)を鑑賞。主役の黒木華をイメージして執筆したという岩井俊二監督の小説を自ら映画化した作家性の高い映画。上映時間が3時間という長尺な作品で、いわゆる商業映画とは一線を画する。今回の上映では1本立てだった。
- 発売日: 2016/09/02
- メディア: Blu-ray
非正規雇用の教員の皆川七海(黒木華)は優柔不断な性格が災いして雇い止めにあい失業。ある日、SNSで知り合った鶴岡鉄也(地曵豪)と安易に結婚することになる。不安定な雇用やネット社会を織り込んだ現代的なテイストで映画始まる。SNSの使い方おかしくないかと思わなくもない。
結婚式に出席する親族が少ないため、鉄也からどうにかしてほしいと言われ、なんでも屋の安室行舛(綾野剛)に代理出世を依頼して結婚式を乗り切る。しかし、すぐに夫の浮気が発覚するが、なぜか七海に浮気の罪がかぶされ離婚。家からも追い出されてしまう。
困った七海は、なんでも屋の安室に訳ありのバイトを紹介してもらい、結婚式の代理出席のバイトでAV女優の里中真白(Cocco)と知り合う。やがて七海と真白の奇妙な共同生活が始まるが……。
長い映画だがタイミングよく場面が転換するので長さはあまり感じない。終盤の二人の花嫁衣装姿での疾走感は素晴らしい。結末は普遍的な人間愛を感じさせる、というと大げさかもしれないが、「生きる」ことを考えさせらる。また真白の死後、里中の母親役のりりィが登場して圧倒的な存在感を見せる。必見。
全編通して、なんでも屋の安室の不思議な立ち位置が気になる。何者かよく分からないが、なにげに高級車に乗っていて羽振りがよさそう。物語は七海が新しい部屋から生活をやり直すところで終わる。これからどうやって生活していくのか明かされないが、余韻の残るラストでよきれいの終わっている。映画としての評価は分かれるだろうが、黒木華の魅力を十分に引き出していることには異論がないだろう。娯楽映画の枠の外でもこうした映画が撮れるのは、日本映画も捨てたものでない。
余談だが、AV女優・真白のマネージャーを夏目ナナが演じていたのを見つけて、「おっ」と思った人は私だけではないだろう。