退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『月光の夏』(1993) / 実話を基にした特攻隊員の戦争秘話

新文芸坐の《戦後70年企画 第二部 映画を通して検証する 日本の戦争/今こそ、反戦平和の誓いをこめて》という企画で、映画『月光の夏』(1993年、監督:神山征二郎)を鑑賞。原作は毛利恒之の同名小説。

太平洋戦争末期、出撃を控えた二人の特攻隊員が最後にグランドピアノを弾きたいと、公子(若村麻由美)が務める鳥栖国民学校を訪ねる。上野の音楽学校(現:東京芸大)ピアノ科の海野(永野典勝)はベートーベンのピアノ・ソナタ「月光」を弾く。そして熊本師範から音楽教師を目指していた風間(田中実)は、生徒たちが歌う「海ゆかば」の伴奏をする。

戦後半世紀。当時の教師・公子(渡辺美佐子)はピアノが破棄されると聞き、保存のため小学校で二人の特攻隊員と思い出を語る。これがマスコミに報道されて大反響を呼ぶ。二人は特定されるがピアノを弾いたとされる風間(仲代達矢)は「覚えていない」と言い、当時のことを話さそうとしない。そのため特攻隊員の話は作り話ではないかと疑われる。

真相を追うドキュメンタリー作家・三池(山本圭)は、取材のなか特攻を果たせず帰還した隊員を収容していた「振武寮」の存在を知り、帰還したのに戦死扱いにされた元隊員が自らの心の傷を語る。ついに風間は心を開き、二人で特攻に出撃したがエンジン不調のため自分だけ生き残ったという真相を語り出す。そして風間は鳥栖に向かい、半世紀ぶりに思い出のピアノに再会し「月光」を演奏する。

まあこんな話だが、やはり実話をベースにしているので重みがあるし反論を許さない雰囲気がある。戦時中と戦後を行き来する構成はよくあるがなかなかよくできている。出演者では山本圭仲代達矢の芝居は見応えがあるし、若村麻由美の可憐さも見逃せない。

そして青い空を背景にしたエンドロールも印象的だ。

ちょっと気になったのは、風間が当時のことを語るのを拒んだため、特攻隊員がピアノを弾きに来た話の信憑性が問われてしまうところ。現場には公子の他にも、他の先生や生徒たちもいたはずなのにどうしてこうなるのかという疑問に思う。当時演奏に立ち会った人の証言は得られなかったのかしらん。

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