退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ビッグ・アイズ』(2014) / 実話を基にしたゴーストペインター事件

目黒シネマで『ビッグ・アイズ』(2014年、監督:ティム・バートン)を鑑賞。実話を基にした実写化作品。ティム・バートンの一連のファンタジー作品が苦手な人でも楽しめるだろう。

60年代アメリカのアート界でブームを巻き起こした絵画〈ビッグ・アイズ〉シリーズ。作者のウィーター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)は一躍時代の寵児となる。しかし、その絵画はすべてコミュニケーションが苦手な妻のマーガレット(エイミー・アダムス)が描いたものだった。奴隷のように絵を描くこと強いられるマーガレット。しかし10年後、ある事件をきっかけに世間に真実を告白する決意する。そして、ついに法廷で夫婦が対決することになる。


Big Eyes Official Trailer #1 (2014) - Tim Burton ...

まず、なぜ10年間も妻は我慢していたのかという疑問があるが、当時は女性画家は社会に相手にされない風潮があったようだ。さらに前夫との間にできた娘を抱え、シングルマザーではとても生活できない時代だった。アメリカでも当時は女性の社会的地位が低かったことに驚く。初の女性大統領が現実味を帯びている現代とは隔世の感がある。

この映画はあらすじだけ聞くととても深刻だ。実際、途中までは夫婦の確執が重々しく感じられるが、決着をつけるため法廷で二人が同時に絵を描くシーンで一気に明るくなる。当然、夫は絵が描けないのだが、その言い訳がふるっている。クリストフ・ヴァルツのオーバーアクションにも思える演技が見事だ。

ネタバレになるのでここでは夫の言い訳は書かないが、このシーンは劇場でかなりウケていた。実際、あれほどコミカルだったのかは分からないが、Wikipediaを読むと実話のようだ。

また映像は、色彩や構図が凝っていて映画自体がポップアートの趣きすらある。ティム・バートンらしい完成度の高い映像に仕上がっている。DVDでじっくり見なおしてみたい。

1960年代製 ビッグ・アイド(ビッグ・アイズ)・ガール・プリント フレーム付き "BIG-EYED SAILOR GIRL" by EDEN
さて、この映画はゴーストペインターを扱っているが、類似の事例はアーティストの世界には意外と多いのではないか。そもそもアーティストはコミュニケーションが苦手で、ビジネスにも疎い場合が多いのではないか。社会との仲立ちをするプロデューサーのような立場の人が必要であろう。

本作でも確かに絵画を描いたのは妻だったが、夫が適切なマーケティングをしなければ、これほどのブームは起きなかっただろう。お互い譲歩しながらパートナーとして上手くやっていく道はなかったものだろうか。夫婦だからより難しいということもあるだろうか。Wikipediaでは、夫のウィーター・キーンのことを"an American plagiarist" と表記されている。ちょっとかわいそうな気もする。

日本で同じような事例を探すと、すぐに佐村河内守の騒動が思い浮かぶ。こちらの方が映画にしたら面白いだろうと思ったら、すでに森達也が制作中とのこと。おそらくドキュメンタリーになるだろうが公開されたら見てみたいものだ。