退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

「理研・笹井氏自殺」で思い出したこと

理研・笹井副センター長の自殺は残念なことでした。このニュースを産経新聞のアプリの号外で知りましたが、とても驚きました。

この報に接したとき、なぜか以前読んだ英文のエッセイを思い出しました。正確には教科書だったので読まされたというべきかもしれませんが。アメリカ人の日本文学者であるエドワード・G・サイデンステッカー(Edward George Seidensticker)が書いた『日本人とアメリカ人』(Japanese and Americans)というエッセイ集です。いまでもリーダーのテキストとして使われているようです。アマゾンにありますが、著者が間違ってますね。

日本人とアメリカ人

日本人とアメリカ人

この本で日米の死生観のちがいについて述べた部分があり、日本人がアメリカ人より自殺しやすいことについてあれこれ考察しています。

著者によれば、アメリカ人作家にもアーネスト・ヘミングウェイのように自殺する者もいるし、エドガー・アラン・ポーの死もゆるやかな自殺の型といえるだろうが、日本人作家の自殺が多いことは確かであるとしています。まあ確かにそうかもしれません。

また、自殺にはいろいろな側面がありますが、やはり重要なのは逃避の手段であるとも言っています。逃避の手段としてはアルコールやドラッグもありますが、アメリカ人はこうした逃避の手段をとることが日本人より多く、日本人は一足飛びにこの世からサヨナラする手段を選ぶことが多いとしています。そのため、日本はアルコール依存がアメリカほど大きな社会問題になっていないのはそのためだと指摘しています。

さらに日米の宗教観にも言及していて、「死ぬ」ことに関連する表現に、"To cross the great divide"や"pearly gates"などがあり、これらはアメリカ人にとって死ぬことがとても大きな変化であることを示しています。また「最後の審判」という決定的なイベントもあり、あの世には新しい生活があり、この世に戻る期待を持っていないというのが、キリスト教の伝統です。

一方、仏教にはこの世に戻る信仰がはっきりとあり、キリスト教の伝統より死者がずっと近い存在であるとしています。輪廻転生を信じる人と、命は一度だけ考える人とは「命」は同じものでないでしょう。このあたりに日米の文化の違いを理解する鍵があると述べています。

この本は初版が1978年であり、受験戦争を終えた日本の大学生が目標を喪失して、暴力的な学生運動に参加する傾向があるなど、今の時代にまったく合わない部分も多いのですが、上に述べた死生観など国民性の根っこにある部分はあまり変わってないのかもしれません。

表題の悲報を聞いて、こんな本を読んだことを思い出しました。

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