退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】林真理子『白蓮れんれん』

NHK連続テレビ小説花子とアン」を見ていなければ決して手に取らなかっただろう。炭鉱王・伊藤伝右衛門に嫁ぎ、「筑紫の女王」と呼ばれた美貌の歌人柳原白蓮が、年下の恋人・宮崎龍介と駆け落ちした「白蓮事件」を、700通に及ぶ二人の往復書簡を参照しつつ描かれる。すべての書簡を保管してあったというから驚きだ。

白蓮れんれん (集英社文庫)

白蓮れんれん (集英社文庫)

本書は、朝ドラでは仲間由紀恵が演じた白蓮の伝記小説である。ドラマでの役名は葉山蓮子だったが、この本では他の登場人物も含め実名で語られる。読んでいる間、白蓮はずっと仲間由紀恵のイメージだった。テレビ恐るべし。

小説では九州での上流階級の社交や、似た境遇である九条武子との友誼などなかなか興味深い。

物語は主に白蓮の視点で描かれているが、ときおり伝右衛門の父が妾に産ませた初枝が語りだすのが印象的である。最終章で出家した初枝の病気を白蓮が見舞う場面があるが、二人の対照にいろいろと考えさせられる。

華族が平民と駆け落ちしたことに対し世間の批判が高めるなか、関東大震災が起こり、それが結果的に二人へ有利に働き一緒に暮らせるようなる。そして、息子を戦争で失ったことや、その後、平和運動に尽力したことなど、白蓮の残りの半生を駆け足で紹介して小説は終わる。

文庫の解説にもあったが、この小説がおもしろいのは階級があるからだろう。華族と平民、知識階級と無学者、資産家と労働者、男と女などなど。いまは、当時ほど階級がはっきりとしているわけではないところが、ミソであろう。

読み進めていくと伊藤家の家族構成は複雑なことに加え、使用人も多いので登場人物を把握するだけで骨が折れるし、男女関係も入り組んでいる。さらに交換書簡は旧仮名遣いだし、使っている言葉もやや難しいのですらすらと読むことはできない。

この本は朝ドラのおかげで大人気らしいが、ミーハーが読み通すには難しいかもしれない。ここにも現代の階級をみることができるだろうか。

この伝記小説は、1994年に上梓され柴田錬三郎賞を受賞しているものの、一般には顧みられることなく絶版同様になっていたが、朝ドラ「花子とアン」の影響は凄まじく、一躍世間の注目を集めている。版元と作者はさぞ驚いたことだろう。

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