文藝春秋(2009年2月号)に掲載されていた、矢貫隆「東京タクシー運転手残酷日誌」(p.360)を読んだ。この記事は、筆者自らが東京でタクシー運転手になり、タクシー業界の問題点を指摘するルポである。
個人的には、タクシー業界がどんなに困窮しようと、安全管理が疎かになり自分が乗るタクシーが事故にさえに合わなければ、一向に構わない。ただタクシーに乗るといつも疑問に思うことがある。「なぜタクシー運転手は道を知らないのか」ということだ。
この記事では、東京でタクシー運転手として働くまでのプロセスが紹介されている。一応、運転手になるには東京タクシーセンターで「地理試験」を合格しなければならず、問題を見ると結構難しい。でも、その地理試験は現場では役に立たないらしい。実地研修がないのだから、これも当然だろう。
経験上も道を知らない運転手は意外に多い。行き先を告げて車を出すから、当然経路を知っているものだと思ったら、「この道でいいですよね」と客である私に道を訊いてくる。普段は電車で移動しているから、道なんか知らないのだが……。本当に困ったものだ。プロにあるまじきスキルレベルだ。
この記事になかなかいい対処が載っていた。乗車したらまず、「クレジットカードが使えること」を確認して、「ナビに住所を登録させる」のだ。今度、これを試してみたい。クレジットカードも「クレカOK」のランプが付いているから、問題ないだろうと思うと、支払いのとき使えなかったりすることが何度かある。
また、年配の運転手が必ずしもベテランではないというのも発見だった。歳では判断できないらしい。運転手の労働市場の流動性は高いからだ。とにかく食えないから入れ替わりは激しい。この記事からは、運転手の追い詰められた実相が浮かび上がってくるが、事故にだけは巻き込まれたくないものだ。
(追記)
この記事を関連して、2014年12月『潜入ルポ 東京タクシー運転手 』(文春新書)が出版されました。