退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『人間魚雷回天』(1955) / 松林宗恵監督の大傑作・反戦映画

新文芸坐で映画『人間魚雷回天』(1955年、監督:松林宗恵)を鑑賞。《没後10年 森繁久彌松林宗恵監督》という企画だったが、この映画には森繁久彌は出演していない。私はあらかじめ知っていたが紛らわしい。白黒映画。

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1944年、連合艦隊が壊滅して戦局が悪化するなか、搭乗員ごと敵艦に体当たりする水中特攻兵器「回天」の猛訓練が続いていた。回天の構造的な欠陥のため、訓練中ひとりの士官が事故死する。予備学生士官のなかに動揺が広がるなか、整備不良で特攻から生還した村瀬(宇津井健)が隊に戻ってくる。また玉井(木村功)や朝倉(岡田英次)たちは自らの死の意味をあらためて考える。出撃前夜、特攻隊員のために宴会が催され、若者たちはそれぞれの思いで最後の夜を過ごす。ついに時が来て、伊号潜水艦が若者たちと回天を載せて出港するが……。

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自身が海軍予備学生だった松林宗恵監督の鎮魂の思い、そして僧侶でもある監督の死生観がよく表現されている反戦映画。敗戦からわずか10年という時期にしか撮れなかった作品だろう。俳優たちにとって戦争が身近だったのだろう、所作にリアリティが感じられる。

特攻隊の映画では出撃前の宴会シーンはクライマックスと相場は決まっているが、この作品でも異様な盛り上がりを見せる。宴会のさなか、玉井の恋人(津島恵子)が玉井を訪ねてきて、夜明けの砂浜に出かける。圧巻はそこでの「妄想デート」。平和な時代であれば、このうようなデートだろうという想像のシーンだ。ここはパートカラーで見たい。さらに津島が逆光のなかで踊るシーンが清楚で美しい。

ほかにも朝倉が鉄拳制裁から救った新米水兵(加藤嘉)が帝大の先輩であることがわかり、最後の夜にカントを語り明かすシーンもちょっといい。

また学徒兵と職業軍人である兵学校出の対立が描かれるのもお決まりだが、映画では兵学校出をきびしく非難していない。案外ぼんやりと理不尽さを訴えているが最後は和解しているようにも思える。職業軍人だけが悪いわけではないという監督の思いだろうか。職業軍人ステレオタイプで悪く描かれることが多い、日本映画にはめずらしいことかもしれない。

さて、この映画のなかでは回天は相当の戦果をあげている。トータルの戦績がどうだったのか知らないが、いずれにしろ特攻ぐらいで勝てるはずもなく日本は無残に敗れる。ラストは平和になった海で大漁旗を揚げる漁船と笑顔の人たちのシーンだ。

特撮は後年の東宝映画に比べるべくもないが、とてもよくできた反戦映画でぜひ一度見てほしい作品だ。

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