将棋ソフトがプロ棋士たちを凌駕する時代がやってきた。長い将棋の歴史のなかで初めて遭遇する事態である。こうした非常事態にプロ棋士たちは何を考えているのか。観戦記者の筆者が11人の棋士にロングインタビューを敢行した個人的にはタイムリーな本。
- 作者:大川 慎太郎
- 発売日: 2016/07/20
- メディア: 新書
「有限な探索空間での思考はコンピュータにかなわない」と従来から言われてきたことだが、情報処理学会は既に「コンピュータ将棋プロジェクト」終了宣言を発表しており、アカデミックには既に勝負あったということだろう。
この本は残酷だ。コンピュータが人間より強くなったときに、棋士の存在理由は何なのかを当人に訊いている。ただちに答えられるものでもないだろう。棋士によってさまざまなに返答しているが、現状のような規模で将棋界を維持するのは難しいだろうということではほぼ一致していたようだ。
現状の棋戦はほぼ新聞社がスポンサーである。すなわち将棋ファンが直接棋士たちを支えているわけない。将棋ソフトの台頭を待つまでもなく、将棋欄があるから新聞が売れるという時代でもなく、新聞業界そのものも斜陽産業である。将棋界の将来が懸念された。
インタビューは棋士の個性が出ていてそれぞれ面白いのだが、ストイックなまでに「棋力向上」に将棋ソフトを活用する千田翔太がとくに印象に残った。これまでとはまったく違う勉強法だったので驚いた。すでに将棋ソフトは棋士の間に浸透して大きな影響を与えていることが伺える。
昨今、一般社会でも人工知能の発達によりコンピュータに仕事を奪われる事態が現実になってきている。科学技術の発達が産業構造を変えるということは、人類はこれまでに何度か経験しているが、棋士たちはそのときどうするのだろう。
自分の仕事についてもコンピュータに奪われるのではと心配している人も、一度棋士の本音を聞いてみると役に立つことがあるかもしれない。