退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『紙の月』(2014) / 横領犯・宮沢りえが疾走します

新文芸坐で映画『紙の月』(2014年、監督:吉田大八)を見てきた。原作は角田光代による同名小説。〈美しすぎる横領犯〉を宮沢りえが演じる。

梅澤梨花宮沢りえ)は夫と二人暮らしの主婦で、銀行の契約社員で営業として働く。顧客の家で出会った大学生・光太(満島真之介)との逢瀬を重ねるなか、お金を使う喜びに目覚め、証書を偽造するなどの手口で横領を重ねて破滅していく姿が描かれる。

宮沢りえがとてもよい。最初は冴えない主婦といった様子だが、一線を越えてからどんどん美しくなるところが見どころ。美人だが薄幸そうなところがまたいい。もっとも、あんな美人の契約社員はいないだろうが……。

年上で美人の梨花が、決してイケメンではないガキの大学生に貢ぐのが理解できないと思ったが、誰でもよかったのだろう。道を踏み外した本当の原因は彼女の内面にあり、お金を介してしか恋愛できずに、お金を蕩尽する快楽に覚醒してのだろうか。この内面的な動機は高校時代の寄付のエピソードとつながるのだろうが、どうも判然としなかった。

また劇中には濡れ場のもあるがソフトな描写である。宮沢りえの激しいラブシーンを期待した人は肩透かしかもしれない。それにしても満島真之介はセックスする役が多い。

ラストで横領が発覚した後、梨花が銀行から逃亡する場面がクライマックス。イスを投げつけてガラス窓を割るスローモーションは日本映画史に残る名シーンだろう。その後、彼女は制服姿で疾走して銀行から逃亡する。ひたすら走る宮沢りえが最高。この「疾走感」が全編を通じてのテーマだ。

共演者では、銀行の同僚である小林聡美大島優子のキャスティングが神がかっている。それぞれよいのだが、とくに大島優子が演じた役は、演技なのか地なのかわからないが、大島本人のキャラクターとかぶっているようで面白い。大島優子恐るべし。

この映画は、銀行の内部が詳細に描かれていて、こんな簡単に横領できるのかと驚いた。これにどれだけリアリティがあるかわからないが、90年代前半当時は業務がオンライン化されていなかったので可能だったのだろうか。梨花がパソコンのプリンタやプリントゴッコを用いて自転車操業で証書偽造している場面は臨場感があり、疾走感があった。


『紙の月』予告篇 - YouTube

この映画は宮沢りえに尽きるわけだが、毎週日曜日のバラエティ番組「ヨルタモリ」(フジテレビ)に出ている彼女がそのままスクリーンに登場するのは妙な感じがした。高倉健は映画での演技に影響しないように、映画以外の露出を極力避けていたというが、今回なるほどと思った。