テレビ朝日開局60周年記念 5夜連続スペシャルドラマ『白い巨塔』を見ました。主演は岡田准一。原作は山崎豊子の長編小説。
これまで幾度も映像化されている作品で、1978年の田宮版、2003年の唐沢版がよく知られています。とくに私は田宮版のファンなので、今回の岡田版も制作発表から気になっていました。
ここでは財前五郎が教授になった後、医療裁判の被告となり失意のうちに死去するまでの後半について感想を書いてみます。『白い巨塔』を知っていることが前提です。
財前教授は無能なのでないか?
教授になった財前五郎(岡田准一)はドイツの学会からの招聘に舞い上がっていたのか、患者・佐々木庸平(柳葉敏郎)の手術で医療ミスをしでかします。柳原医師(満島真之介)や里見(松山ケンイチ)から何度も指摘があったにもかかわらずPET検査をせずに手術したり、手術に肝臓に異変を認めるも生検をしなかったりダメダメです。
何らかの根拠があっての行為ならばともかく、素人から見ると明らかな医療ミス。財前は傲慢不遜であるが高い能力を持った天才外科医だから許される。その前提が崩れてしまうような失態はどうかと思います。
ドイツから帰国後、事態を把握した財前がひたすら隠蔽工作に奔走するのもカッコ悪い。術後一度も診察しなかったとう対応はまずかったが、医療的には一点の瑕疵もないという態度でいてほしかったですね。
裁判もあっさり風味
従来のドラマでは多くの参考証人が法廷に呼ばれ、医療行為の是非についても争点になりますが、今回は尺がないのか裁判もあっさり終わります。財前に医療過誤があったという前提のドラマになっているのは不満。法廷劇の醍醐味が感じられません。
例えば、仮にPET検査で異常を見つけても患者の死は避けられなかったという立論もありえるのではないでしょうか。
柳原医師の苦悩する姿はよかった
佐々木の担当医の柳原医師を演じた満島真之介はよかった。財前から隠蔽工作を強要され、医師としてのあるべき姿を自問自答するあたりは見応えがありました。ただ裁判があっさり終わるので、裁判途中に突然翻意して財前教授に反抗する最大に見せ場も貯めがなくてちょっと残念でした。まあ脚本がアレなので仕方ないでしょう。
また原作どおり、財前側の口封じの策と一環として柳原はドラッグストアの娘・華子(樋井明日香)と見合いさせられ、柳原が劣情のままに男女の関係になる場面は健在でした。柳原が財前を裏切りると、婚約は破談になるかと思いきや、大学を追われた柳原医師と華子がふたりで高知の無医村に旅立つ場面はかすかな希望を感じさせてよかったです。
「恥じない」手紙
ドラマのクライマックス。末期がんに冒された財前は里見に手書きの遺書を託します。すでにがんが脳にまで転移して手が自由に動かないので金釘流の手紙です。
この遺書は名文として知られています。ついに「恥じる」手紙が来たと思いましたが、このドラマの遺書は「恥じない」手紙でした。表現をわかりやすくしたつもりなのかわかりませんが、どうも釈然としません。
遺書によれば、財前は自分ががん患者なって初めて患者の気持ちがわかったとを言い、すっかり傲慢不遜だったイメージを投げ捨て改心しています。これは財前のイメージとはちがい納得できなません。
がんの研究者として、がんの早期発見の機会を逸しがんに斃れることを恥じる気持ちこそあれ、自らが行ってきた医療行為については後悔はないというのが、本来の財前のイメージでしょう。