退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『仇討』(1964) / ラストの鬼気迫る錦之助に刮目!

新文芸坐の《日本映画の黄金時代を書いた男 追悼・橋本忍》で映画『仇討』(1964年、監督:今村正)を鑑賞。橋本忍のオリジナル脚本で封建時代の武士社会の不条理を描く。白黒映画。

些細な口論から果たし合いになり、無役軽輩の江崎新八(中村錦之助)は上役の奥田孫八郎(神山繁)を斬ってしまう。尋常な果たし合いだったが事なかれ主義の家老は、両者乱心によるものと決着させる。これに納得しない孫八郎の弟・主馬(丹波哲郎)は、新八を斬りに向かうが返り討ちにあう。事態がエスカレートするなか奥田家は若輩の弟を討手に立て藩に仇討ちを申し出て許される。新八は討たれてやるつもりだったが、まるで壮大な見世物ような公開の仇討ちだと知り、ふつふつと怒りを募らせる……。

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ラストの仇討ちの場に臨んだ錦之助の狂気に満ちた演技は必見。鬼気迫るとはまさにこのことだ。また橋本忍の脚本も冴えている。とくに時系列を前後させて事態の経緯を描き出す構成は脚本の教科書といえる。そして今村正監督のリズム感のある計算された演出もすばらしい。このような時代劇が撮れた最後の時代と言ってもいいだろう。

こうした武士社会の理不尽を描いた作品は珍しくない。併映の『切腹』(1962年)もそうした一本である。この類の映画は当時の日本のサラリーマン社会を風刺する意図があったのかもしれないが、理不尽な働き方という点においては、21世紀の現代日本もあまり変わらないようだ。

なお本作は国内ではDVD化されていないようだ。フィルムも国立映画アーカイブ提供だったし、東映から捨てられた映画なのだろうか。橋本忍の脚本作品としては貴重な作品。機会があればぜひ見てほしい。

仇討 [VHS]