新文芸坐の《輝き続ける、台湾ニューシネマの魅力》で映画『珈琲時光』(2004年)を鑑賞。併映は『黒衣の刺客』だったので、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作品の二本立てだった。
小津安二郎生誕100周年を記念して、台湾の巨匠ホウ・シャオシェン監督が日本で撮った作品。『東京物語』のオマージュというが、露骨な技巧的な模倣は見られないのは好感が持てる。
東京で一人暮らしするフリーライターの陽子(一青窈)が台湾の青年の子どもを妊娠する。あえてシングルマザーの道を選ぶ彼女を両親(小林稔侍・余貴美子)が静かに見守る、という淡白な映画。物語に起伏がないという点では小津映画の作風を踏襲しているかもしれない。
劇中、陽子が気分が悪くなりうずくまり、唐突に男友達の竹内(浅野忠信)に「私、妊娠しているから」と告げるシーンがある。「え!?」と思ったが、一度そうした経験をしてみたいものだ。ちょっと憧れるシチュエーションだ。二人はどんな関係なのだろう。
結局、子どもはどうなったのかを告げずに映画は終わる。この二人が育てることになるのだろうか。未来を観客に丸投げして映画は終わるのは、小津らしいと言えるかもしれない。
また当時の東京の風景をスクリーンに残しているのは貴重。とくに駅や車窓、車内など鉄道がよく撮れている。御茶ノ水で電車が立体交差する地点などおなじみの鉄道スポットの数々も登場する。鉄ヲタ狂喜というほどではないが、やはり東京と鉄道は切り離せないのだろう。