退屈な日々 / Der graue Alltag

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【映画感想】『トキワ荘の青春』(1996) / 漫画家・寺田ヒロオとの再会

目黒シネマの市川準監督特集で、映画『トキワ荘の青春』(1996年)を見てきた。著名な漫画家が居住していたことで知られる木造アパート「トキワ荘」を舞台に、若き漫画家たちの青春を描く。

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本木雅弘が演じる漫画家・寺田ヒロオが主人公。トキワ荘の年長者として若手漫画家をサポートしていくなか、徐々に時流から取り残されていく寺田の姿が描写されている。

主演以外の主な出演者には、当時ほぼ無名だった古田新太阿部サダヲ生瀬勝久らが起用されたが、いま振り返ると豪華な配役になっている。監督に先見の明があったということか。

「青春」を謳うものの、映画のトーンはいたって暗い。抑揚が乏しい、淡々と進行する物静かな作品になっている。

同じトキワ荘で漫画を描く若者たちのなかにも、売れっ子になる者、なかなか売れない者など明暗が別れる。そうした過酷な現実を反映してか鬱屈とした空気の映画になっている。当時の漫画家の生活はそういうものかもしれないし、現実に即しているのかもしれない。雰囲気は出ていたように思う。

この映画で惜しいのは、トキワ荘の住民たちがどんな作品を描いていたのかよく分からないことだ。売れっ子漫画家になった住人のもとには、編集者たちが原稿の催促に押し寄せる。当時、どんな連載を持っていたのかとても気になる。漫画の原画を映してくれれば神だったのにと思う。

また同じようなことだが、寺田ヒロオが時流に取り残されるシーンでも、世間でどんな漫画がウケていたのかを示してくれるとよいだろう。寺田がどんな作風の漫画を忌避して、編集者と対立したまで自分の世界を守りたかったのとう点が、より明確になったのではないだろうか。

やや余談になるが、寺田ヒロオについて書いてみたい。寺田ヒロオは1950年代後半から1960年代前半にかけて活躍した漫画家。実業団野球の選手だったこともある野球経験者であり、野球漫画を得意としていた。

この映画のなかでもバットの素振りをするシーンを見ることができる。もっぱら正統派の児童向け漫画を描いたが、その後の劇画ブームにより寺田の作風は時流から取り残されてしまう。

時代を考えると私とのリアルタイムの接点はないだろう思っていた。が、今回作品リストを眺めて、寺田が週刊誌撤退後の活躍の場になっていた小学館の学習雑誌の連載を読んでいたことを思い出した。自分が購読していたのか近所の友だちに見せてもらったのか思い出せないが……。

まあ誰も知らないと思うが「カーブくんドロップくん」という野球漫画である。この作品が寺田ヒロオ全集に収録されていたことがわかり、もう一度驚いた。ぜひ読んでみたいが、実際読むとガッカリするかもしれないと思うと複雑な気持ちだ。
背番号0〔野球少年版後編〕【下】 (マンガショップシリーズ 322)
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