退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『菩提樹』(1956)

映画史に輝くミュージカル映画の名作『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年、ロバート・ワイズ監督)はよく知られている。だが、同じ題材を扱う先行映画『菩提樹』(1956年、ヴォルフガング・リーベンアイナー監督)という映画があることは、それほど知られていないだろう。Die Trapp-Familieという原題を持つ西ドイツ映画である。

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どちらの映画もマリーア・トラップの自伝をもとにしているが、予算はずいぶんと違うのだろう。本作はかなり地味であるが史実に沿っている。本作でトラップ一家が歌うのはクラシックの名曲であり、邦題の「菩提樹」もシューベルトの楽曲に由来する。一方、ハリウッド版では、合唱の指導者であるヴァースナー神父が除かれるなど、大胆に潤色されている。さらにオリジナルの楽しい楽曲が準備され名作となった。

また本作ではトラップ大佐が反ナチス勢力のために、海外にあった自分の資産を国内に移すなど、大佐の反ナチスの政治姿勢が強調されている。その後、ドイツのオーストリア併合を機に、一家はアメリカに亡命することになる。低予算のせいか、ザルツブルクの屋敷を出ると、次のシーンではニューヨークに着いてびっくりする。自由の女神が背景に映っているがスタジオでの撮影であろう。

この映画のいいところは、まずドイツ語劇であるということだろう。ドイツ映画なのだから当たり前だが、ハリウッド版では英語で話しているのは不自然だと思ったものだ。そして、一家の歌う合唱の美しさであろう。とくに一家の次男を演じるミハエル・アンデは名子役で、『野ばら』(Der Schönste Tag meines Lebens)にも出演して美しい歌声を披露している。

本作を見て、『サウンド・オブ・ミュージック』といろいろ比べてみるのも面白いだろう。ちなみに、アメリカへ亡命した後の一家を描く続編『続・菩提樹』(1958年)もつくられている。

脱線するが、トラップ大佐は退役海軍大佐という設定で「艦長」と呼ばれていた。しかしオーストリア内陸国なのに海軍あるのかと最初思ったが、時代を考えるとオーストリア=ハンガリー帝国の軍人だったのだろう。それならば、地中海にかなり長い海岸線があったはずだ。


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