退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『敦煌』(1988) / バブル期ならでは歴史スペクタル超大作

新文芸坐の《「映画監督 佐藤純彌 映画よ憤怒の河を渉れ」刊行記念 プログラムピクチャーから大作映画まで 映画の職人〈アルチザン〉 佐藤純彌》という企画で映画『敦煌』(1988年)を鑑賞する。原作は井上靖の同名小説。シルクロードを舞台にした一大ロマン。日本人俳優が日本語で演じている。

11世紀の中国・宋が舞台。科挙に不合格になり自暴自棄になっていた若者・趙行徳(佐藤浩市)は西北部の新興国西夏の女(三田佳子)を出会ったことから、希望を求めてシルクロード西夏を目指す。途中、西夏漢人部隊と出会い、隊長の朱王礼(西田敏行)の配下となる。やがて行徳は敵国のウイグル王女ツルピア(中川安奈)と出会い互いに愛し合うようになるが……。

紆余曲折を経て、やがて行徳はシルクロードの分岐点である敦煌に辿り着く。西夏の軍勢が敦煌を攻め滅ぼそうとするなか、敦煌が長年にわたり蒐集した書籍や経典などの膨大な文化資産を守るため、郊外の石窟寺院に運びだす。後年、こうして守られた敦煌の遺産が発掘されて人類共通の文化資産として高く評価されることになる。

敦煌 [VHS]
ざっくりこうした話だが、個人的には主人公・行徳の彷徨う魂というか、彼の内面をじっくり描いてほしかったが、この映画では行徳とツルピアの愛が強調されてメロドラマのようになっている。映画としてのカタルシスを考えると仕方なかったのかもしれないが、やや不満である。

たいして深みは感じられない映画だが、大規模な中国ロケを敢行した映像は見ごたえがある。とくに砂漠をこれほど見事に捉えた日本映画は他に見当たらない。シルクロードブームの乗せられて見に来た観客も納得したことだろう。

この映画は佐藤純彌の代表作に一つに挙げられるが、小説「敦煌」の映画化はスムーズには行いかなかった。当初、監督は小林正樹が務める予定だったが頓挫している。数年前に世田谷文学館で開催された小林正樹展のボツになった企画を集めたコーナーで小林監督による脚本などが展示されていた。

その後も深作欣二監督が制作に着手するがこれも立ち消えになり、結局、日中合作映画『未完の対局』を撮った実績を買われて佐藤純彌監督に白羽の矢が立つことになった。小林正樹版あるいは深作欣二版が実現していたら、どのような映画になっていただろう。

配役はオールスターといった様相でとても豪華だし、大規模な中国ロケを行い、見るからにカネのかかった映画である。まさにバブル期にしか撮れなかった作品であろう。今後もこれだけの超大作が日本でつくられることはないだろう。一度は映画館で見ておきたい映画である。