ついに鴻海精密工業による買収が決定したシャープ。その経営破綻の原因を経営陣の権力抗争に求め、徹底した取材に基づき名門企業が転落していく過程を追う。読み物としてもたいへん面白い。

- 作者:
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2016/02/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
冒頭に人物紹介と相関図が載っている。まるで小説のようだと思いながら読み始めた。願わくは人物紹介では大学名だけでなく学部や専攻まで紹介してほしかった。
本書によれば経営破綻の主な原因は、液晶事業と太陽電池事業の大型投資の失敗、そして人事抗争による内紛のため、この失敗に対する効果的な対策を打ち出す時期を逸したということになるだろうか。
ただ社風とか経営陣の不和が原因だったというのはシンプルで分かりやすいが、本当にそれだけだったのだろうかという思いはある。もし優秀な経営者が会社の舵取りをしていたら経営破綻を避けることができたのだろうかという疑問である。いまさら経営に「もし」なんて考えても無意味だと言われればそうだが……。
大企業の経営陣など雲の上の話のようだが、庶民にとってもいろいろ考えさられることがある。
まず経営者がバカだといかに大企業でも瞬く間に経営破綻するという事実を再認識する必要がある。大企業に就職できたからもう安泰だという時代は過ぎ去った。
労働市場での自分の価値を高めていく不断の努力が求めれる時代になったということだ。経営破綻を招いた経営幹部がちゃっかり他社に転職しているのもみるとそういう思いがいっそう強くなる。
以前読んだ、中田行彦『シャープ「企業敗戦」の深層』(イースト・プレス、2016年)は経営学の視点から問題を客観的に指摘しているのに対し、本書は人事抗争に注目してエンターテイメント性を高めている。カネのとれる読み物と言ってもよい。読み比べてみるのも一興だろう。