いま田中角栄が注目されている。この本がきっかけをつくったのか、それともただブームに便乗したのか分からないが、近所の書店では角栄コーナーができるほど注目が集まっている。
つい最近「角栄がロッキード事件での逮捕されて40年」という記事を見つけた。およそ半世紀前の政治家なので、多くの人にとっては歴史上の人物ということなろうか。この本では、臨終間近の角栄がこれまでの人生を回顧する、モノローグの形式で角栄の真の姿を描く。
角栄研究はすでに尽くされているので、いまさらなぜ角栄なのかという気もしたが、一気に読ませるのはさすが。日中国交正常化とロッキード事件のあたりに多くの紙面が割かれている。角栄が失脚したのはアメリカの陰謀によるという筆者の歴史観で綴られているのは気になる。実際に角栄自身はどこで失敗したと思っていたのか知りたいものである。
個人的には政治家として名を成したあとより上京する前の故郷で苦労する様子が印象に残った。「今太閤」などと言われるが本当に底辺から成り上がったわけではないが、「庶民宰相」の方が実像を言い当てている。いずれにせよいま流行りの世襲政治家とは大違いである。
また本編のあとの「長い後書き」では、政治家時代の筆者と角栄の間にあった実際のエピソードが紹介されている。このパートが本編に説得力を持たせているのだが、少しずるい気もする。それでも知己があり同時代を生きた人物だからこそ書けた文章だとも言えるかもしれない。
いずれにせよ毀誉褒貶半ばする政治家と広く知られ、そしていまなお顧みられる政治家は類を見ない。まさに不出世の天才と呼ぶのに相応しい。そう思うと、タイトル倒れの本が多いなか、「天才」という書名はよくできている。