新文芸坐で映画『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年、監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル)を鑑賞。ヒトラー暗殺未遂事件の首謀者であるデオルク・エルザー(Johann Georg Elser、1903-1945)の人生を描く。ドイツ映画。
- 出版社/メーカー: ギャガ
- 発売日: 2016/04/28
- メディア: Blu-ray
1939年11月8日、ヒトラーは、ミュンヘン一揆(1923年)の舞台となったビアホールで記念演説を行った。ヒトラーが移動手段の都合で例年より早く演説を切り上げ会場を後にした。ヒトラーの退席後、時限爆弾が爆発し7人が死亡する。
この暗殺未遂事件の首謀者であるエルザーはスイスへ越境しようとするがあっさり逮捕される。時限爆弾に関しては緻密な計画を立てたエルガーが、逃亡計画についてはずいぶんと杜撰なことである。これではせっかくの時限爆弾が台無しだ。
逮捕後の取り調べでエルガーが単独犯だと自白するが、ヒトラーは信用せず背後関係を調べるように命じる。執拗な拷問にもかかわらず単独犯であることを主張し、結局ナチスも「エルザーの単独犯」と結論せざると得なかった。拷問シーンはエグいので要注意。
この映画は、暗殺が失敗するところから始まり、次の2つの時間軸を行き来しながら進んでいく。ひとつは暗殺失敗後のエルザーの取り調べ。そしてもうひとつはエルザーがヒトラーを暗殺しよう決意するに至った経緯が、1932年までさかのぼって彼の人生を通して語られる。
ドイツの小さな田舎街がナチスの台頭で次第に変質していく様子が、エルガーの視点からよく描かれているのは美点。またエルザーは鬱屈した人生を送っていたと勝手に思ったが、決して経済的には豊かではないものの人妻といい仲になり子どもまでつくっていたとは知らなかった。結構、リア充である。
さてエルザーの最期だが、ヒトラーの死の直前までダッハウ強制収容所で生かされるが、連合軍が収容所を開放する前に秘密裏に処刑されている。戦後、東西冷戦のなか西ドイツは政治的な理由によりエルザーの存在を隠していたという。その経緯は映画では詳しくは語られないが、冷戦が終了してドイツ再統一後、戦争を阻止しようとした人物として復権したという。
この映画はタイトルから暗殺計画が失敗することが明らかなので、暗殺の成否を巡るサスペンスとは成り得ない。ハリウッド映画のような高揚感とは無縁な映画だが、ドイツ人自身が描くナチ時代のドイツはやはり興味深い。