今年9月に日本上陸したNetflix(ネットフリックス)に代表される定額見放題型の映像配信サービス(SVOD:サブスクリプション型ビデオ・オン・デマンド)の新しい波は、私たちの生活にいかに変えるのか。業界の最新動向がよくまとまっている良書。
キーワードは「イッキ見」(binge watching)という視聴習慣だという。この視聴習慣の変化により既存のテレビが見られなくなるだけでなく、コンテンツ製作にも大きな影響を与えているいう指摘は面白い。SVOD配信の場合、途中にCMを入れる必要がないし、番組の長さもある程度は自由になる。SVOD事業者が独自コンテンツを欲しているという事情もあり、このような自由なフォーマットがこれまでにない新しいタイプの良質のコンテンツが生まれている。
またSVODではすべてのユーザーの視聴履歴を容易にデータとして取得できる点も興味深い。このビッグデータは経営に役立つことはもちろんだが、これを分析することで個別のユーザーに対し最適なコンテンツをリコメンドすることができる点は特筆できる。SVODでは理論上は無限の豊富なコンテンツを提供することができるが、「見つからないものは、存在しないに等しい」というわけなので、見てもらわないと話にならない。
もちろんユーザーが粘り強く検索するば見つかるのだが、自分の評価軸を持たない人も多いし、トップページに並んでいるアイコンをクリックするだけの層も多いのだろう。最近、Huluのトップページから「新着」「視聴中」が消えたのもこのあたりの事情と関係ありそうだ。
私自身はHuluに加入していてまあ満足しているし、周りにもSVODの利用者が増えてきている。確実に浸透しつつあるようだが、まだまだ「感度の高い」人たちが中心のように思える。今後、生活のインフラのレベルまで普及するかを占うカギがこの本にはある。
最後に注文を付けるとすれば、「お金の流れ」についてもっと知りたかった。Huluの関係者が「ミニマムギャランティ」の話をしている件があるぐらいだ(p.193)。センシティブな話なのでムズカシイのかもしれないが、コンテンツホルダーとSVOD事業者との力関係や契約形態などドロドロした話題もほしい。毎月の利用料金がどこに流れているの知りたい人は多いのではないか。
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