シネマヴェーラ渋谷の《渋谷実のおかしな世界》で映画『好人好日』(1961年、監督:渋谷実)を鑑賞。奈良女子大学で教鞭を執っていた数学者・岡潔がモデルとされる喜劇映画。
舞台は古都・奈良。世界的な数学者であるが変人の大学教授(笠智衆)の文化勲章受章騒動と血のつながっていない一人娘(岩下志麻)の縁談話を軸に展開する人情話。長年連れ添った妻(淡島千景)との夫婦愛も見どころ。
喜劇映画のはずだが笠智衆のとぼけた飄々とした演技は絶品だがあまり笑えない。コメディーは時代を反映をするというが、当時の受け止めはどうだったのだろう。
それでも瑞々しい岩下志麻の姿だけでも見るだけでも一見の価値はあろう。その後、『極道の妻たち』で啖呵を切るようになるとは、当時誰が想像しただろうか。
そして笠智衆の家では関西弁は話されていなかったことも気になった。劇中、文化勲章受章のため上京する場面で学生時代の下宿に宿泊するシーンがあったので、関西人ではない設定だったのかもしれないが、関西弁のほうが芝居に味が出たかもしれない。
また渋谷実らしい演出として、焼き芋屋の売り子の声がオープンリールのテープレコーダーだったというシーンが印象的。時代を風刺したシーンなのだろうが、ちょっと現代には通じにくいだろう。
最後に笠と岩下が父娘を演じる作品と言えば、やはり小津安二郎の遺作『秋刀魚の味』(1962年)を思い出す。この映画はそれより1年早い時期に撮られている。2つの映画を比べてみるのも一興だろう。