退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『気違い部落』(1957) / 日本のムラ社会を徹底的に風刺した一本

シネマヴェーラ渋谷の《渋谷実のおかしな世界》で映画『気違い部落』(1957年、監督:渋谷実)を鑑賞。タイトルが強烈すぎてソフト化できないというレア作品。しかし内容は特に差別を助長するものではないことを最初に断っておく。

舞台は東京近郊の山間部のわずか14世帯の部落。馬鹿げた部落の掟のため、周囲からは「気違い部落」と呼ばれるている、一風変わった部落の日常生活が描かれる。

アバンタイトルで、森繁久彌が解説者としてステージに登場し「気違いも、自分の事を気違いとは思わないもののようです」などと口火を切る。その後はナレーターながらも、出演者とのやり取りが続くところが面白い。

映画の中盤以降、鉄次(伊藤雄之助)とお秋(淡島千景)の夫婦が、部落の他の住民との間で土地をめぐるトラブルを起こし「村八分」になってしまう。そうしているうち、娘のお光(水野久美)が病死するも、ムラの掟のため葬儀を手伝う者が誰もいない。

このような騒動を通じて日本のムラ社会の悪弊を風刺した作品であるが、映画で取り上げた山間部のムラを描くことで、当時の日本全体が「ムラ社会」であることを描き出そうとしたものだろうか。切り込みは鋭い。

映画から半世紀以上の年月を経て日本は経済的には大いに成長したが、福島原発事故のときに「原子力ムラ」の存在が指摘されたように、日本の本質はあまり変わってないのかもしれない。

プログラムピクチャーとしては長尺だが、当時の評判はどうだったのか気になるところだ。上映することに物議はなかったのだろうか。あまり上映機会が多いとも思えない作品なので、興味のある人はチャンスを逃さず鑑賞してほしい。